2015年1月15日木曜日

レイストリンの香り

一時期アロマにもはまっていまして、自分で好きな香りを調合しては
オーデコロンを作ったり、ボディソープに香りを付けたりしていました。
しかし引っ越しを機に、古くなったオイルや道具類を処分し
しばらく縁遠くなっていたある日のことです。

それは、出先でふらりと立ち寄ったアロマショップ「生活の木」にありました。


「ブレンドエッセンシャルオイル
ホームズのインテリジェンスローズマリー」

シャーロック・ホームズをイメージした香りですって!
買って嗅いで見ると、ローズマリーをベースにやや柑橘系の入った、
いかにも頭がすっきりしそうな香りでした。

こんな感じで、好きな小説の登場人物の香りを作ったら楽しそう。
まっさきに思いついたのは、昨年、約二十年ぶりに再読し
燃えあがっている「ドラゴンランス」シリーズの真の主役、
魔導士レイストリン・マジェーレ。

かれの香りというと、こんな描写があります。
 と、体がぬくもりに包まれるのを感じた。黒ローブの柔らかな天鵞絨が剥き出しの腕に触れた。香辛料と薔薇の花びらの甘い香りがした。それからかすかに鼻につく腐敗の匂い――こうもりの翼か、もしかしたら何かの動物の頭骨か――魔法使いたちが呪文をかけるときに用いる不可思議な品々の匂い。
(ドラゴンランス伝説2巻 イスタルの神官王」より)
という訳で、メインは薔薇にいたしましょう。最寄りのお店の店員さんに
「フレッシュでない、乾燥した薔薇の花びらの香りを」と相談し、
いろいろサンプルを嗅がせてもらって決めたのはダマスクローズ(モロッコ産)。
生々しくない、甘く――酔わされる香りです。


そしてレイストリンと香料と言えば、忘れられないあのシーン。この時、深刻な対立関係にあったはずの、双子の兄キャラモンとの会話。
「おれが言ってるもののこと、覚えてるか?おまえが呪文をかけるときに使うやつだ。あれはシチューをおいしく作るのにも使えたもんだ!なんて言ったっけ……おれたちの名字に似てた――マージェレ、マージョリーかな?はは!」 
「マージョラムだよ」
「その香料はマージョラムというんだ……」

(「ドラゴンランス伝説3巻 黒ローブの老魔術師」より)
スパイスとして、鶏肉のハーブソテーを作るのによく使ってます。エッセンシャルオイルはスパイスそのものよりもきつい、やや辛辣な香りがしました。


以上二つは確定としまして、あともう一種類くらい欲しい。
ツイッターで、香りに詳しそうな方にお伺いしましたところ
(RTやお気に入りの傾向で、てっきりドラゴンランスお読みになってるものと誤解してましたが実は未読で、わざわざレイストリンについて調べて答えてくださったそうです!感謝しております)

「何か『影』を感じさせるようなイメージの香りを足したらいいのでは」

とのご助言を頂いて思いつきました。
セントジョンズワート、和名「西洋弟切草」。
ウィキペディアによると、弟切草には薬の秘密を洩らした弟が兄に殺されたという逸話があるそうです。ぴったりではないですか、兄弟の愛憎の香り。

英名は、聖ヨハネの祭日(6月24日)に収穫されることによるんだとか。
「日本語ではotogiriso、brotherslayer's wortって言うんですよ〜」
などと英語圏の人に紹介してみたい気がしますが
「だったらCain's wortって呼べばいいんじゃない?」なんてことになりそうです。

ハーブティーとして飲んだことがありますが、笹のような香りがしました。
エッセンシャルオイルは濃縮した笹の香りに、かすかな苦み。いい感じです。


セントジョンズワートは在庫がなくてお取り寄せ。
入荷の連絡を受け、試験紙やミニビーカーと一緒に買ってきました。




















調合した香りを試す試験紙(ムエット)のデザインも素敵です。


香りに酔いそうになりながら、ああでもないこうでもないと試行錯誤。
原液、二つずつ混ぜた場合、三種混合、混ぜた直後と少し経過してからの香り。

結局、ローズ4:マージョラム2:セントジョンズワート3

くらいのバランスで落ち着き、エタノールと精製水を加えて
オーデコロンにしました。
使えるのはしばらく寝かせてからです。
どんな香りに仕上がっているでしょう。

いろいろ相談に乗ってもらった店員さんに
「できあがったらぜひ嗅がせてくださいね」
と言われているのですが、さてイメージしたキャラってどんな人?
と聞かれたときの答えも用意しておかねばなりませんね。

2015年1月11日日曜日

お散歩

正月明けの週末、人がいっぱいの恵比寿ガーデンプレイスに行ってきました。
すずめもいました。
なんとなくサッポロファクトリーを思い出しました。
道中ファクトリーの広告もありますしね。
上様はヱビスビールの広告を見て飲みたくなったようですが
車なので断念した模様。



続いて代官山の蔦屋書店に。
せっかくなので何か洋書を、と思ったんですが
これというものはなく、こんなものを手に取ってみたり。


雑誌バックナンバー読み放題のカフェにも行きました。
「暮しの手帖」があったので、
「スティーブ・マックイーンが言い残していったこと」
を読んできました。1981年発行の70号。
記事そのものはこちらで読めます。

http://www1.ocn.ne.jp/~mkoseki/mcqueen/comment/comment2.html

タレントとして、公人として、自分が宣伝する商品の品質に責任を持ちたいという主張が
法と商取引の上で認められなかったのも遺憾ですが
当時の日本の新聞もそれを理解していなかったのですね。
理解して主張したのは「暮しの手帖」だけだったんでしょうか。

「鳥川さん」読んで一息つくとしましょう。

2014年12月13日土曜日

Apoptosis

ツイッターでも騒いでいますが
12/6に東京経済大学グリークラブさんの演奏会を聴きにいって
男声合唱組曲「Enfance finie」の魅力に改めてどっぷり浸かっております。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLJ9yw1NzHCK2XkmKl-rdg0kcwnA1X_Baa

はまるあまりに、詩人三好達治の詩集を買って読み込んだり
さらに今日は新宿紀伊国屋書店にまで足を伸ばしてみましたら
「続・宗左近詩集」を発見しました。
荻久保和明氏の合唱曲「縄文」シリーズの作詩者です。

いろいろ読みつつ美味しいワイン二杯開けました。
デザートはこれです。薔薇の香り。

そして酔った勢いで自分も何か書きたくなってきました。
例によって電車の中で考えてさくっと投稿。

まずは前振り。

誰がそれを罰してくれたらう

――吉原幸子「喪失」

生まれないのに死んでしまつた
玻璃盤の胎児は
酒精のとばりの中に
昼もなほ昏々と眠る

――三好達治「玻璃盤の胎児」

この世にある存在 それらをあらしめている
根本の力 ぼくはそれを信じています

ただし その力が人間を裁くとは思えない
そのため神さまという言葉で呼ばないのです

――宗左近「罪と罰」

***

Apoptosis


補足。
アポトーシス(apoptosis)とはプログラムされた細胞の自死作用。
外傷や毒物などによる死はネクロシス(necrosis)と呼んで区別する。

2014年12月4日木曜日

箱根温泉

11/29-30、上京してきた母と叔母と、箱根温泉に行ってきました。
あいにくの雨模様で、紅葉も終わる頃でしたが
桜も紅葉も、樹上で全開の姿よりも散る様を眺める方が好きなので
自分としてはちょうどいい頃合いでした。

特に紅葉は、地に落ちても水に没してもなおしばらくは
色鮮やかさを保っている様が美しいですね。




桜が散る様には、どうしても吉原幸子「花」を思い出します。

 しなやかな丘の貝がら
 吹きはがされた空のうろこ

温泉宿にはこんなちらしがありました。

ヤクルトの香りのお風呂・・・入りたくない。

雨模様で外はあまり歩けなかったのですが、宿の近くの岡田美術館に行ってきました。
東洋美術、特にメインの中国美術にはあまり関心なかったので
さらりとスルーしたんですが
ひびも欠けもない縄文式土器を見られたのは良かったです。

翌日は母と叔母が愛する箱根駅伝の復路スタート地点を見たり
ルネ・ラリック美術館に行ったり。
箱根には犬も歩けば棒に当たるほど美術館がありますね。
今度は美術館巡りをメインに行ってみたいものです。
ヴェネツィアングラス美術館なんてのもあったようですし。

2014年9月29日月曜日

メルヘン

ケブラートワロンpoly-p-phenyleneterephthalamideとも呼ばれるp-フェニレンジアミンとテレフタル酸クロリドから共縮重合して得られるパラ系アラミド繊維である。(ポリアミド-Wikipedia

アクリロニトリル(Acrylonitrile)・ブタジエン(Butadiene)・スチレン(Styrene)を化合して作るプラスチックの一種です。それぞれの頭文字をとってABS樹脂と呼ばれています。(JAPANESE MAKERS

…着いた。
 ここで変わるみたいだ。

 ここから僕は「僕たち」になるんだね。

―工場に搬入され、製造ラインに回される樹脂原料。

 そう。そしてさよなら。

―加工が済み、倉庫で出荷待ち。

 やあ、聞こえる?

 うん。僕はこんな風になったよ。

 強いね。僕なんてこんなだよ。

 その分、何にでもなれるんだって?

 そうみたい。楽しみだな。

―出荷の日が来る。

 今度こそ、さよなら。

 さよなら。…またどこかで、会えたらいいね。

ボディアーマー(body armor)は、銃弾や爆発による破片などから身を守るために使用されるベスト状の身体防護服。(中略)素材としては基本的に強靭な繊維であるケブラーやアラミド繊維を幾重にも織り込んでおり、さらに…(ボディアーマー-Wikipedia

3Dプリンターの主な機種には次のものがある。・・・
ABS樹脂やポリカーボネイトを使用した熱溶解積層法方式のストラタシス社Fortus/Dimension/uPrint/Mojoシリーズ・・・(3Dプリンター-Wikipedia

 まさか、本当に会えるなんてね。

 思ってもみなかったね。そんな形で。

 こんな形で。

 ね、どっちが強いかな?

 君と僕と?

 僕と、君の押す力と。

 どうだろうね。

 ほら、もう試されるみたいだよ。楽しみだね。

―轟音。

 ね、まだ聞こえてる?

 うん。また、何かの形で、

 会えたら、

 いいね。

3Dプリンターによって作られた銃から射出された弾丸に撃ち抜かれたボディーアーマーごと、死体が放置される。

―もう一人の手に握られたまま、銃が去る。




 うん、また、いつか、何かの形で。



――――――――――――――


3ヶ月程前に突発的に書いて放っといた代物です。
ある方に読んでもらうために限定公開です。
突然消えるかも知れません。

2014年9月28日日曜日

高尾山

御嶽山が大変なことになっている中、電車に乗ってふらりと山へ。
いろんな花が咲いています。



「六根清浄」ってベジタリアンのキャッチフレーズみたいに見えて、
なんで肉屋さんが?と思ったんですが
調べたら六根とは五感+第六感のことを指し、
山ごもりなどによって不浄なものを見ない、聞かない・・・
ことにより魂を清浄な状態に保つ、登山者のかけ声みたいなものだそうです。
(Wikipediaの記事を元に勝手に要約)

「悪を知らずして悪を取り締まれるか」
(池波正太郎「鬼平犯科帳」)


薬王院では礼拝はしませんでしたが手は浄めてきました。
帰る道々、なんで人は神というものを求めたがるのかな〜
などと考えながら歩いていたらカエルさんに遭遇。


人は騙されていると判っていても何かを信じたいんでしょうか。
「ドラゴンランス」にはれっきとした神々が
(久しく忘れ去られた後に)
登場しますが、力はあっても絶対的な存在という訳ではありません。
作者ワイスとヒックマンの宗教観ってどうなんでしょうね。
「戦記」の原書が届いたら、その辺もじっくり解読してみたいところです。

「おれはあんた方なんて信じられない!」タニスは叫んだ。「いったいどんな神々なんです。人に犠牲を強いるなんて?あんた方は人々の上に<大変動>をもたらしたのと同じ神々なんだ。いいでしょう――強大な力をお持ちなんだ!だったらもう放っといてください!おれたちにはあんた方なんていらない!」(「廃都の黒竜」より)

お土産はどんぐりクッキーです。

2014年9月23日火曜日

愛の言葉十撰

長い記事なのでページ内リンクを付けようとさんざん苦労しましたが、どうやらBloggerではできないようです・・・下に各台詞に対するコメントがありますのでご参照ください。


「さらば、グラティシャ。フウェム=オメヨの王女よ。そなたを愛していた」
――サクシフ・ダン
(マイクル・ムアコック「この世の彼方の海」)

「私の尊敬に値する人であなたがあってくれた、そう思って死ねるのは大変心が安らかだ。どうか私の記憶が愛しいものとしてあなたの心に残るだろうと、せめて私に思わせておいてください」
――クレーヴ公爵
(ラファイエット夫人「クレーヴの奥方」)

「そうさせたのはあなたの美しさなのだ。あなたの美しさが私の眠りにつきまとって離れず、私に世界中の男を殺したいと思わせたのだ」
――リチャード三世
(ウィリアム・シェイクスピア「リチャード三世」)

「もう兄さんなんか必要ないんだ!もう兄さんなんか必要ないんだよ!」
――レイストリン・マジェーレ
(マーガレット・ワイス&トレイシー・ヒックマン「ドラゴンランス伝説6 奈落の双子」)

「everything is ready…Lt.」
――雪風
(神林長平「グッドラック 戦闘妖精・雪風」)

「そうよ、瑠璃は墨染めの白拍子なの。そして吉野君と舞を舞うの…!」
――瑠璃姫
(氷室冴子原作、山内直美作画「なんて素敵にジャパネスク文庫版4巻」)

「レオナール…それでも私はあなたのことを…愛していたわ…」
――アロセール・ダーニャ
(「タクティクスオウガ」Cルート第四章)

「御意…麗しき、我が星の神子様……。」
――カラハバルハ
(「ファイナルファンタジーXI」クエスト「星月、その姿は」)

「父さんを助けたかったんだ。この街の力を使って…。
ぼくが生まれたとき、父さんがそうしてくれたように。
今度は僕が助けたかったんだ」
――シドニー・ロスタロット
(ベイグラントストーリー)

平和より自由より正しさより
君だけが望む全てだから
――BEYOND THE TIME
(「逆襲のシャア」テーマソング 作詞:小室みつ子、歌:TMネットワーク)



「さらば、グラティシャ。フウェム=オメヨの王女よ。そなたを愛していた」

 一目惚れした娘を無理矢理愛人にしたメルニボネ貴族にして魔術師、サクシフ・ダン。彼女の許嫁が連れ戻しにきた時、彼女が自分を裏切ったと思った彼は許嫁を殺し、彼女を有無も言わさず凄惨な拷問死に追いやります。しかし彼女の最期の想いは…

 新版では明文化されてませんが、旧版でははっきりと語っていました。
「愛しています、愛しています、愛しています…」

「なんたることよ!それから?おぬしの先祖はどうした」
「後悔したのだ」
「当然だろうな!」
「だが、メルニボネ人にとってはそうではない、われわれが後悔などという感情を抱くことはめったにないのだ」

 彼女、グラティシャの生まれ変わりを探し、ようやくヴァスリスを見つけ出したサクシフ・ダンと、エルリックが忘却界から召喚した許嫁、カロラーク皇子の対決。

「あの娘は余を愛してたのだからな。そうおまえを、ではない」
「彼女(あれ)はわれわれ双方を愛していたのだ。だが彼女(あれ)が汝に与えた愛は魂をそっくりくれてやるようなものだ。われはそのようなものをいかなる女からも求めはせぬ」

 決着が着き、死に逝くサクシフ・ダンの最期の台詞が冒頭のこれです。
 愛し方を、愛され方を知らないとはなんと残酷なことでしょうか。



「私の尊敬に値する人であなたがあってくれた、そう思って死ねるのは大変心が安らかだ。どうか私の記憶が愛しいものとしてあなたの心に残るだろうと、せめて私に思わせておいてください」

 美しいシャルトル姫に惚れ込んだクレーヴ公爵と、愛の何たるかも知らぬまま結婚する姫。しかし彼女はクレーヴの奥方となってからヌムール公に出会い、恋に落ちてしまいます。遊び人ヌムール公もまた彼女に恋し、当時のフランス貴族の道徳観念にのっとり奥方を誘惑します。きっぱりと拒絶しつつも苦悩する奥方。やがて秘められた恋は夫の耳に入り、妻が別の男を恋していること、もしかしたら既に自分を裏切っているかも知れない、という苦しみは彼を死の床に追いやります。しかし潔白を訴える妻の真摯さに心を休らげて逝くのでした。
 はっきり言ってこの話も登場人物も嫌いです。でもこの台詞はあまりに美しいので取り上げました。



「そうさせたのはあなたの美しさなのだ。あなたの美しさが私の眠りにつきまとって離れず、私に世界中の男を殺したいと思わせたのだ」

 薔薇戦争の最中、義父と夫を失った未亡人アンの元に、よりによって義父の葬儀の席に、下手人であるヨーク家のリチャードが現れ、こともあろうに彼女に求婚します。
 人殺し、夫と義父の仇、と罵るアンに突きつけたのがこの台詞です。一見、凄まじい口説き文句、殺し文句ですよね?でもこの言葉には一片の真もありません。なのに彼女はリチャードの求婚に応じてしまいます。
 ここからは私の解釈、私がアンだったら、という想像の話ですが、アンもそれは重々承知、リチャードの言葉を額面通り受け取ってはいないと思います。リチャードが自分に求婚するのは、王位に就くために自分の実家の力が欲しいから、ただそれだけだということを判っている筈なんです。

 しかしですね。

 ジョゼフィン・テイ「時の娘」や最近の研究により、シェイクスピアに造られた兄殺し、甥殺しの悪党というリチャード像は見直されていますが、とりあえず『リチャード三世』においてはそういうリチャードです。せむしのヒキガエルと嘲られながら肚の中で野心を燃やし、王位に就くためなら自分を憎みきっている女の前に身を投げ出し、これほどまでの強烈な言葉を吐いてしまうリチャードに…私だったら、落ちます。この男の野望が成就するのを見てみたい。それだけのために、愛のない結婚に応じます。
 人を狂わせるのは「あなたを幸せにします」よりも、「あなたのために世界を滅ぼしてさしあげましょう」という言葉なんではないでしょうか?嘘か真かなんて、問題ではないのです。



「もう兄さんなんか必要ないんだ!もう兄さんなんか必要ないんだよ!」

 虚弱な体に生まれ、周囲に嘲られ、双子の兄以外に心から自分を思ってくれる人を持たず、ずっと兄に縋って生きてきたレイストリン。数多の犠牲を払いつつ、彼は唯一の才能である魔術を極め、ついに神に挑戦する力を得ます。そのために多くの人々を苦しめ、さらには自分を愛してくれる人をも裏切って。そして…それは成功する筈でした。この不条理で残酷な世を統べる神々を滅ぼし、彼が支配する世を造る一歩手前まで来て、立ち塞がったのは最愛の兄キャラモンでした。未来への旅から帰還した兄は、弟に自分がしようとしていることの結果を見せます。生きとし生けるもの全てが滅びた、虚無の世界を。

「レイストリンは誤りを犯した――おそるべき、悲惨な誤りを。しかし、あいつはおれたちにもめったにできないようなことをした――その誤りを率直に認め、直せるところはあくまで直そうとしたのだ。たとえ、自分が犠牲になろうとも」(セカンドジェネレーション上巻「受け継ぎし者」)

<暗黒の女王>に挑戦するために入った奈落(アビス)から、自分を愛し力となってくれたにもかかわらず自分が裏切った二人の人間―キャラモンとクリサニア―を送り出し、自分は女王を食い止めるためにこちらに残り、向こう側から扉を閉ざしてもらうこと。彼はそれを選択します。女王が予言した永劫の責め苦を受けることを承知で。
 向こう側から振り返り、<暗黒の女王>が彼を引き裂く姿に怯み、扉を閉ざすことを躊躇うキャラモンへの最後の叫び。

 これは文字通りの意味ばかりではないと思うのです。共に生まれ、常に共に在り、自分が兄を必要とする以上に、弟が自分を必要としてくれることを必要としていた兄への、ひねくれた愛情表現のように感じるのです。
「兄さんにはもうぼくは必要ないんだよ」

 ページの最後に、マジェーレ兄弟についてもう一つ妄想があります。



「everything is ready…Lt.」

 これのどこが「愛の言葉」なのか。それを説明するには「戦闘妖精・雪風<改>」「グッドラック 戦闘妖精・雪風」を読んで頂くしか。それでもやっぱりこれが愛なのかって追求されると、私には愛に感じられるんですって答えるしかありませぬ。

 以下、ちょっとだけ脳裏をよぎった妄想。普段の私の雪風観とは違います。ほんの気の迷いです。

<改>、グッドラック、アンブロークンアローを通じて、雪風の後部座席には正規のフライトオフィサ他、ブッカー少佐やフォス大尉などが搭乗しています。しかしパイロットシートには、ほぼ深井零しか乗っていません。零がダウンしている時は無人機として出撃したりしていますが。
<改>の最終話「スーパーフェニックス」で、ジャムが用意した偽のTAB14に着陸させられた雪風は、ジャム人間たちの操作を拒み保護装置を作動させます。零以外の人間は触るな、とばかりに。
 零を乗せて偽TAB14を脱出したものの、ジャムに撃墜される雪風。一緒に死ねるならいい、という零の願いを裏切り、雪風は近くに来ていた、完成したばかりの後継機FRX00に自己を転送します。完了するや否や零の体を射出し、新たな機体FRXで古い機体スーパーシルフを焼き払い、帰還します。パイロット達の無事を確かめることもせず。

 FRXのパイロットシートには退役寸前のサミア大尉、後部座席には零の身を案じたブッカー少佐が乗っていました。「(雪風の)パイロットシートには、ほぼ深井零しか乗っていません」と書きましたが、唯一の例外がこの瞬間です。雪風となったFRXの高機動に耐えられず、サミア大尉は頸を折って即死、ブッカー少佐も頸を傷めます。FRXという機体に感じた危険性、恐怖がとっさに自分の頸を護ったと少佐は考えています。一方で、何故FRXは乗員を殺しかねない高機動に入る前に乗員を射出しなかったのか、雪風は錯誤に陥っていたのか、と疑問を発しています。

 そこでですね。ここからやっと妄想です。FRXに生まれ変わった雪風は、そこに、パイロットシートに零以外の人間がいたことが許せず、サミア大尉を「殺した」のだったりしたら、怖いなあ…なんて。
 はい妄想です、気の迷いです。雪風には、そんな人間めいたどろっとした感情なんて持ってて欲しくないです。ジャムと戦うために必要なものは利用し、不要とあらば切り捨てる、容赦ない戦闘知性体であってください。例え「愛する」相手であっても。



「そうよ、瑠璃は墨染めの白拍子なの。そして吉野君と舞を舞うの…!」

 どんなものにも、どんな思いも、人を救う一方で滅ぼす力があるのでしょうか。幼い日の美しすぎる思い出ですらそうですか。

「やはりあなたは…わたしを滅ぼしましたね。
これは罰なのでしょうね…愛執を断てなかったわたしへの…」

 本当に、瑠璃姫を殺せなかったことを後悔していますか?異母兄のことも。…尋ねるまでもありませんね。あなたが無事吉野に辿り着いたと信じています。



「レオナール…それでも私はあなたのことを…愛していたわ…」

 どのルートであれ、「タクティクスオウガ」をプレイした人なら、この「それでも」の四文字の計り知れない重さに説明はいらないでしょう。
 N>L>Cルートの順にプレイしてきて、正直アロセールというキャラは嫌いでした。しかしCルート第四章まで来てうっかり死なせてしまい(リセットしてやり直しましたけど)この台詞を見て、ふっとそれまでのわだかまりが抜けました。わかっているなら、それでいいよ、と。
「運命の輪」(未クリア)で、バルマムッサの真相を知るシーンではこんな台詞が追加されてましたね。

「どうして彼だけに、それを負わせたの?」



「御意…麗しき、我が星の神子様……。」

 舞台は戦時下、状況は絶望的、国は滅亡の危機にあります。
「星の神子様」とはウィンダス連邦の首長、女王に等しい立場です。
 その恋人カラハバルハは召喚士で、ついに状況を打開する最後の手段、神獣フェンリル召喚術を完成させたことを報告し、神子様に決断を迫ります。それを行使すると、彼は死んでしまうことは二人とも承知なのです。
 激しく葛藤し涙する神子様。しかしついに命を発します。

「カラハバルハ…、ウィンダスを、救ってください…」

 他に何が言えたでしょう。他にどんな言葉を返せたでしょうか。

 しかーし、このような「自分のために死ねと命じてください」という台詞に対し、予想外の、しかしいかにも彼らしい返事を返した主君もいます。いつか必ず別の機会に取り上げます。



「父さんを助けたかったんだ。この街の力を使って…。
ぼくが生まれたとき、父さんがそうしてくれたように。
今度は僕が助けたかったんだ」


「魔」が支配する街、レアモンデ。その力を求めて争う複数の勢力。謎と裏切り。改竄された主人公アシュレイの記憶と、それを翻弄する幻影。それら全ての中心にいた彼の本音がこれでした。しかも、今の自分じゃなくて、幼く何も知らなかった、ひたすら父を慕っていた頃の自分、異母弟とそっくりの姿を欺きながら。
…あざといにも程があるわっ。



平和より自由より正しさより
君だけが望む全てだから


「愛の言葉十撰」という企画自体はずっと前からあったものの、最後の一つが決まらず、蔵書やゲーム台詞サイト(自分のサイトも含む)をめぐっていて心に触れたのがこれでした。タクティクスオウガで、三ルートをクリアした後改めてLルートに入る時、去っていくヴァイスの背中に向けて呟きたかった言葉です。君が救われるためなら、僕がこの手を汚そう。
 歌詞検索ついでに曲もiTunesで買っちゃいました。そしたらまた別の妄想が。



 蛇足。
「BEYOND THE TIME」のこの部分が、マジェーレ兄弟のテーマに思えてしかたがないです。

You can change your destiny 時の向こう
You can change your future 闇の向こう
We can share the happiness 捜してゆく
許し合えるその日を

「伝説」終盤で、時間旅行で哀しむべき未来を見て、どんな手段を使ってでもレイストを止める覚悟を固め、奈落(アビス)に向かうキャラモン。
「消えた月の竜」で、タキシスに盗まれたクリンを捜し見つけ出すレイストリン。死せる魂の身で、神々にもできなかったことをやっちゃうんだからやっぱり最強ですよね、はい。