長い記事なのでページ内リンクを付けようとさんざん苦労しましたが、どうやらBloggerではできないようです・・・下に各台詞に対するコメントがありますのでご参照ください。
「さらば、グラティシャ。フウェム=オメヨの王女よ。そなたを愛していた」
――サクシフ・ダン
(マイクル・ムアコック「この世の彼方の海」)
「私の尊敬に値する人であなたがあってくれた、そう思って死ねるのは大変心が安らかだ。どうか私の記憶が愛しいものとしてあなたの心に残るだろうと、せめて私に思わせておいてください」
――クレーヴ公爵
(ラファイエット夫人「クレーヴの奥方」)
「そうさせたのはあなたの美しさなのだ。あなたの美しさが私の眠りにつきまとって離れず、私に世界中の男を殺したいと思わせたのだ」
――リチャード三世
(ウィリアム・シェイクスピア「リチャード三世」)
「もう兄さんなんか必要ないんだ!もう兄さんなんか必要ないんだよ!」
――レイストリン・マジェーレ
(マーガレット・ワイス&トレイシー・ヒックマン「ドラゴンランス伝説6 奈落の双子」)
「everything is ready…Lt.」
――雪風
(神林長平「グッドラック 戦闘妖精・雪風」)
「そうよ、瑠璃は墨染めの白拍子なの。そして吉野君と舞を舞うの…!」
――瑠璃姫
(氷室冴子原作、山内直美作画「なんて素敵にジャパネスク文庫版4巻」)
「レオナール…それでも私はあなたのことを…愛していたわ…」
――アロセール・ダーニャ
(「タクティクスオウガ」Cルート第四章)
「御意…麗しき、我が星の神子様……。」
――カラハバルハ
(「ファイナルファンタジーXI」クエスト「星月、その姿は」)
「父さんを助けたかったんだ。この街の力を使って…。
ぼくが生まれたとき、父さんがそうしてくれたように。
今度は僕が助けたかったんだ」
――シドニー・ロスタロット
(ベイグラントストーリー)
平和より自由より正しさより
君だけが望む全てだから
――BEYOND THE TIME
(「逆襲のシャア」テーマソング 作詞:小室みつ子、歌:TMネットワーク)
「さらば、グラティシャ。フウェム=オメヨの王女よ。そなたを愛していた」
一目惚れした娘を無理矢理愛人にしたメルニボネ貴族にして魔術師、サクシフ・ダン。彼女の許嫁が連れ戻しにきた時、彼女が自分を裏切ったと思った彼は許嫁を殺し、彼女を有無も言わさず凄惨な拷問死に追いやります。しかし彼女の最期の想いは…
新版では明文化されてませんが、旧版でははっきりと語っていました。
「愛しています、愛しています、愛しています…」
「なんたることよ!それから?おぬしの先祖はどうした」
「後悔したのだ」
「当然だろうな!」
「だが、メルニボネ人にとってはそうではない、われわれが後悔などという感情を抱くことはめったにないのだ」
彼女、グラティシャの生まれ変わりを探し、ようやくヴァスリスを見つけ出したサクシフ・ダンと、エルリックが忘却界から召喚した許嫁、カロラーク皇子の対決。
「あの娘は余を愛してたのだからな。そうおまえを、ではない」
「彼女(あれ)はわれわれ双方を愛していたのだ。だが彼女(あれ)が汝に与えた愛は魂をそっくりくれてやるようなものだ。われはそのようなものをいかなる女からも求めはせぬ」
決着が着き、死に逝くサクシフ・ダンの最期の台詞が冒頭のこれです。
愛し方を、愛され方を知らないとはなんと残酷なことでしょうか。
「私の尊敬に値する人であなたがあってくれた、そう思って死ねるのは大変心が安らかだ。どうか私の記憶が愛しいものとしてあなたの心に残るだろうと、せめて私に思わせておいてください」
美しいシャルトル姫に惚れ込んだクレーヴ公爵と、愛の何たるかも知らぬまま結婚する姫。しかし彼女はクレーヴの奥方となってからヌムール公に出会い、恋に落ちてしまいます。遊び人ヌムール公もまた彼女に恋し、当時のフランス貴族の道徳観念にのっとり奥方を誘惑します。きっぱりと拒絶しつつも苦悩する奥方。やがて秘められた恋は夫の耳に入り、妻が別の男を恋していること、もしかしたら既に自分を裏切っているかも知れない、という苦しみは彼を死の床に追いやります。しかし潔白を訴える妻の真摯さに心を休らげて逝くのでした。
はっきり言ってこの話も登場人物も嫌いです。でもこの台詞はあまりに美しいので取り上げました。
「そうさせたのはあなたの美しさなのだ。あなたの美しさが私の眠りにつきまとって離れず、私に世界中の男を殺したいと思わせたのだ」
薔薇戦争の最中、義父と夫を失った未亡人アンの元に、よりによって義父の葬儀の席に、下手人であるヨーク家のリチャードが現れ、こともあろうに彼女に求婚します。
人殺し、夫と義父の仇、と罵るアンに突きつけたのがこの台詞です。一見、凄まじい口説き文句、殺し文句ですよね?でもこの言葉には一片の真もありません。なのに彼女はリチャードの求婚に応じてしまいます。
ここからは私の解釈、私がアンだったら、という想像の話ですが、アンもそれは重々承知、リチャードの言葉を額面通り受け取ってはいないと思います。リチャードが自分に求婚するのは、王位に就くために自分の実家の力が欲しいから、ただそれだけだということを判っている筈なんです。
しかしですね。
ジョゼフィン・テイ「時の娘」や最近の研究により、シェイクスピアに造られた兄殺し、甥殺しの悪党というリチャード像は見直されていますが、とりあえず『リチャード三世』においてはそういうリチャードです。せむしのヒキガエルと嘲られながら肚の中で野心を燃やし、王位に就くためなら自分を憎みきっている女の前に身を投げ出し、これほどまでの強烈な言葉を吐いてしまうリチャードに…私だったら、落ちます。この男の野望が成就するのを見てみたい。それだけのために、愛のない結婚に応じます。
人を狂わせるのは「あなたを幸せにします」よりも、「あなたのために世界を滅ぼしてさしあげましょう」という言葉なんではないでしょうか?嘘か真かなんて、問題ではないのです。
「もう兄さんなんか必要ないんだ!もう兄さんなんか必要ないんだよ!」
虚弱な体に生まれ、周囲に嘲られ、双子の兄以外に心から自分を思ってくれる人を持たず、ずっと兄に縋って生きてきたレイストリン。数多の犠牲を払いつつ、彼は唯一の才能である魔術を極め、ついに神に挑戦する力を得ます。そのために多くの人々を苦しめ、さらには自分を愛してくれる人をも裏切って。そして…それは成功する筈でした。この不条理で残酷な世を統べる神々を滅ぼし、彼が支配する世を造る一歩手前まで来て、立ち塞がったのは最愛の兄キャラモンでした。未来への旅から帰還した兄は、弟に自分がしようとしていることの結果を見せます。生きとし生けるもの全てが滅びた、虚無の世界を。
「レイストリンは誤りを犯した――おそるべき、悲惨な誤りを。しかし、あいつはおれたちにもめったにできないようなことをした――その誤りを率直に認め、直せるところはあくまで直そうとしたのだ。たとえ、自分が犠牲になろうとも」(セカンドジェネレーション上巻「受け継ぎし者」)
<暗黒の女王>に挑戦するために入った奈落(アビス)から、自分を愛し力となってくれたにもかかわらず自分が裏切った二人の人間―キャラモンとクリサニア―を送り出し、自分は女王を食い止めるためにこちらに残り、向こう側から扉を閉ざしてもらうこと。彼はそれを選択します。女王が予言した永劫の責め苦を受けることを承知で。
向こう側から振り返り、<暗黒の女王>が彼を引き裂く姿に怯み、扉を閉ざすことを躊躇うキャラモンへの最後の叫び。
これは文字通りの意味ばかりではないと思うのです。共に生まれ、常に共に在り、自分が兄を必要とする以上に、弟が自分を必要としてくれることを必要としていた兄への、ひねくれた愛情表現のように感じるのです。
「兄さんにはもうぼくは必要ないんだよ」
ページの最後に、マジェーレ兄弟についてもう一つ妄想があります。
「everything is ready…Lt.」
これのどこが「愛の言葉」なのか。それを説明するには「戦闘妖精・雪風<改>」「グッドラック 戦闘妖精・雪風」を読んで頂くしか。それでもやっぱりこれが愛なのかって追求されると、私には愛に感じられるんですって答えるしかありませぬ。
以下、ちょっとだけ脳裏をよぎった妄想。普段の私の雪風観とは違います。ほんの気の迷いです。
<改>、グッドラック、アンブロークンアローを通じて、雪風の後部座席には正規のフライトオフィサ他、ブッカー少佐やフォス大尉などが搭乗しています。しかしパイロットシートには、ほぼ深井零しか乗っていません。零がダウンしている時は無人機として出撃したりしていますが。
<改>の最終話「スーパーフェニックス」で、ジャムが用意した偽のTAB14に着陸させられた雪風は、ジャム人間たちの操作を拒み保護装置を作動させます。零以外の人間は触るな、とばかりに。
零を乗せて偽TAB14を脱出したものの、ジャムに撃墜される雪風。一緒に死ねるならいい、という零の願いを裏切り、雪風は近くに来ていた、完成したばかりの後継機FRX00に自己を転送します。完了するや否や零の体を射出し、新たな機体FRXで古い機体スーパーシルフを焼き払い、帰還します。パイロット達の無事を確かめることもせず。
FRXのパイロットシートには退役寸前のサミア大尉、後部座席には零の身を案じたブッカー少佐が乗っていました。「(雪風の)パイロットシートには、ほぼ深井零しか乗っていません」と書きましたが、唯一の例外がこの瞬間です。雪風となったFRXの高機動に耐えられず、サミア大尉は頸を折って即死、ブッカー少佐も頸を傷めます。FRXという機体に感じた危険性、恐怖がとっさに自分の頸を護ったと少佐は考えています。一方で、何故FRXは乗員を殺しかねない高機動に入る前に乗員を射出しなかったのか、雪風は錯誤に陥っていたのか、と疑問を発しています。
そこでですね。ここからやっと妄想です。FRXに生まれ変わった雪風は、そこに、パイロットシートに零以外の人間がいたことが許せず、サミア大尉を「殺した」のだったりしたら、怖いなあ…なんて。
はい妄想です、気の迷いです。雪風には、そんな人間めいたどろっとした感情なんて持ってて欲しくないです。ジャムと戦うために必要なものは利用し、不要とあらば切り捨てる、容赦ない戦闘知性体であってください。例え「愛する」相手であっても。
「そうよ、瑠璃は墨染めの白拍子なの。そして吉野君と舞を舞うの…!」
どんなものにも、どんな思いも、人を救う一方で滅ぼす力があるのでしょうか。幼い日の美しすぎる思い出ですらそうですか。
「やはりあなたは…わたしを滅ぼしましたね。
これは罰なのでしょうね…愛執を断てなかったわたしへの…」
本当に、瑠璃姫を殺せなかったことを後悔していますか?異母兄のことも。…尋ねるまでもありませんね。あなたが無事吉野に辿り着いたと信じています。
「レオナール…それでも私はあなたのことを…愛していたわ…」
どのルートであれ、「タクティクスオウガ」をプレイした人なら、この「それでも」の四文字の計り知れない重さに説明はいらないでしょう。
N>L>Cルートの順にプレイしてきて、正直アロセールというキャラは嫌いでした。しかしCルート第四章まで来てうっかり死なせてしまい(リセットしてやり直しましたけど)この台詞を見て、ふっとそれまでのわだかまりが抜けました。わかっているなら、それでいいよ、と。
「運命の輪」(未クリア)で、バルマムッサの真相を知るシーンではこんな台詞が追加されてましたね。
「どうして彼だけに、それを負わせたの?」
「御意…麗しき、我が星の神子様……。」
舞台は戦時下、状況は絶望的、国は滅亡の危機にあります。
「星の神子様」とはウィンダス連邦の首長、女王に等しい立場です。
その恋人カラハバルハは召喚士で、ついに状況を打開する最後の手段、神獣フェンリル召喚術を完成させたことを報告し、神子様に決断を迫ります。それを行使すると、彼は死んでしまうことは二人とも承知なのです。
激しく葛藤し涙する神子様。しかしついに命を発します。
「カラハバルハ…、ウィンダスを、救ってください…」
他に何が言えたでしょう。他にどんな言葉を返せたでしょうか。
しかーし、このような「自分のために死ねと命じてください」という台詞に対し、予想外の、しかしいかにも彼らしい返事を返した主君もいます。いつか必ず別の機会に取り上げます。
「父さんを助けたかったんだ。この街の力を使って…。
ぼくが生まれたとき、父さんがそうしてくれたように。
今度は僕が助けたかったんだ」
「魔」が支配する街、レアモンデ。その力を求めて争う複数の勢力。謎と裏切り。改竄された主人公アシュレイの記憶と、それを翻弄する幻影。それら全ての中心にいた彼の本音がこれでした。しかも、今の自分じゃなくて、幼く何も知らなかった、ひたすら父を慕っていた頃の自分、異母弟とそっくりの姿を欺きながら。
…あざといにも程があるわっ。
平和より自由より正しさより
君だけが望む全てだから
「愛の言葉十撰」という企画自体はずっと前からあったものの、最後の一つが決まらず、蔵書やゲーム台詞サイト(自分のサイトも含む)をめぐっていて心に触れたのがこれでした。タクティクスオウガで、三ルートをクリアした後改めてLルートに入る時、去っていくヴァイスの背中に向けて呟きたかった言葉です。君が救われるためなら、僕がこの手を汚そう。「さらば、グラティシャ。フウェム=オメヨの王女よ。そなたを愛していた」
――サクシフ・ダン
(マイクル・ムアコック「この世の彼方の海」)
「私の尊敬に値する人であなたがあってくれた、そう思って死ねるのは大変心が安らかだ。どうか私の記憶が愛しいものとしてあなたの心に残るだろうと、せめて私に思わせておいてください」
――クレーヴ公爵
(ラファイエット夫人「クレーヴの奥方」)
「そうさせたのはあなたの美しさなのだ。あなたの美しさが私の眠りにつきまとって離れず、私に世界中の男を殺したいと思わせたのだ」
――リチャード三世
(ウィリアム・シェイクスピア「リチャード三世」)
「もう兄さんなんか必要ないんだ!もう兄さんなんか必要ないんだよ!」
――レイストリン・マジェーレ
(マーガレット・ワイス&トレイシー・ヒックマン「ドラゴンランス伝説6 奈落の双子」)
「everything is ready…Lt.」
――雪風
(神林長平「グッドラック 戦闘妖精・雪風」)
「そうよ、瑠璃は墨染めの白拍子なの。そして吉野君と舞を舞うの…!」
――瑠璃姫
(氷室冴子原作、山内直美作画「なんて素敵にジャパネスク文庫版4巻」)
「レオナール…それでも私はあなたのことを…愛していたわ…」
――アロセール・ダーニャ
(「タクティクスオウガ」Cルート第四章)
「御意…麗しき、我が星の神子様……。」
――カラハバルハ
(「ファイナルファンタジーXI」クエスト「星月、その姿は」)
「父さんを助けたかったんだ。この街の力を使って…。
ぼくが生まれたとき、父さんがそうしてくれたように。
今度は僕が助けたかったんだ」
――シドニー・ロスタロット
(ベイグラントストーリー)
平和より自由より正しさより
君だけが望む全てだから
――BEYOND THE TIME
(「逆襲のシャア」テーマソング 作詞:小室みつ子、歌:TMネットワーク)
「さらば、グラティシャ。フウェム=オメヨの王女よ。そなたを愛していた」
一目惚れした娘を無理矢理愛人にしたメルニボネ貴族にして魔術師、サクシフ・ダン。彼女の許嫁が連れ戻しにきた時、彼女が自分を裏切ったと思った彼は許嫁を殺し、彼女を有無も言わさず凄惨な拷問死に追いやります。しかし彼女の最期の想いは…
新版では明文化されてませんが、旧版でははっきりと語っていました。
「愛しています、愛しています、愛しています…」
「なんたることよ!それから?おぬしの先祖はどうした」
「後悔したのだ」
「当然だろうな!」
「だが、メルニボネ人にとってはそうではない、われわれが後悔などという感情を抱くことはめったにないのだ」
彼女、グラティシャの生まれ変わりを探し、ようやくヴァスリスを見つけ出したサクシフ・ダンと、エルリックが忘却界から召喚した許嫁、カロラーク皇子の対決。
「あの娘は余を愛してたのだからな。そうおまえを、ではない」
「彼女(あれ)はわれわれ双方を愛していたのだ。だが彼女(あれ)が汝に与えた愛は魂をそっくりくれてやるようなものだ。われはそのようなものをいかなる女からも求めはせぬ」
決着が着き、死に逝くサクシフ・ダンの最期の台詞が冒頭のこれです。
愛し方を、愛され方を知らないとはなんと残酷なことでしょうか。
「私の尊敬に値する人であなたがあってくれた、そう思って死ねるのは大変心が安らかだ。どうか私の記憶が愛しいものとしてあなたの心に残るだろうと、せめて私に思わせておいてください」
美しいシャルトル姫に惚れ込んだクレーヴ公爵と、愛の何たるかも知らぬまま結婚する姫。しかし彼女はクレーヴの奥方となってからヌムール公に出会い、恋に落ちてしまいます。遊び人ヌムール公もまた彼女に恋し、当時のフランス貴族の道徳観念にのっとり奥方を誘惑します。きっぱりと拒絶しつつも苦悩する奥方。やがて秘められた恋は夫の耳に入り、妻が別の男を恋していること、もしかしたら既に自分を裏切っているかも知れない、という苦しみは彼を死の床に追いやります。しかし潔白を訴える妻の真摯さに心を休らげて逝くのでした。
はっきり言ってこの話も登場人物も嫌いです。でもこの台詞はあまりに美しいので取り上げました。
「そうさせたのはあなたの美しさなのだ。あなたの美しさが私の眠りにつきまとって離れず、私に世界中の男を殺したいと思わせたのだ」
薔薇戦争の最中、義父と夫を失った未亡人アンの元に、よりによって義父の葬儀の席に、下手人であるヨーク家のリチャードが現れ、こともあろうに彼女に求婚します。
人殺し、夫と義父の仇、と罵るアンに突きつけたのがこの台詞です。一見、凄まじい口説き文句、殺し文句ですよね?でもこの言葉には一片の真もありません。なのに彼女はリチャードの求婚に応じてしまいます。
ここからは私の解釈、私がアンだったら、という想像の話ですが、アンもそれは重々承知、リチャードの言葉を額面通り受け取ってはいないと思います。リチャードが自分に求婚するのは、王位に就くために自分の実家の力が欲しいから、ただそれだけだということを判っている筈なんです。
しかしですね。
ジョゼフィン・テイ「時の娘」や最近の研究により、シェイクスピアに造られた兄殺し、甥殺しの悪党というリチャード像は見直されていますが、とりあえず『リチャード三世』においてはそういうリチャードです。せむしのヒキガエルと嘲られながら肚の中で野心を燃やし、王位に就くためなら自分を憎みきっている女の前に身を投げ出し、これほどまでの強烈な言葉を吐いてしまうリチャードに…私だったら、落ちます。この男の野望が成就するのを見てみたい。それだけのために、愛のない結婚に応じます。
人を狂わせるのは「あなたを幸せにします」よりも、「あなたのために世界を滅ぼしてさしあげましょう」という言葉なんではないでしょうか?嘘か真かなんて、問題ではないのです。
「もう兄さんなんか必要ないんだ!もう兄さんなんか必要ないんだよ!」
虚弱な体に生まれ、周囲に嘲られ、双子の兄以外に心から自分を思ってくれる人を持たず、ずっと兄に縋って生きてきたレイストリン。数多の犠牲を払いつつ、彼は唯一の才能である魔術を極め、ついに神に挑戦する力を得ます。そのために多くの人々を苦しめ、さらには自分を愛してくれる人をも裏切って。そして…それは成功する筈でした。この不条理で残酷な世を統べる神々を滅ぼし、彼が支配する世を造る一歩手前まで来て、立ち塞がったのは最愛の兄キャラモンでした。未来への旅から帰還した兄は、弟に自分がしようとしていることの結果を見せます。生きとし生けるもの全てが滅びた、虚無の世界を。
「レイストリンは誤りを犯した――おそるべき、悲惨な誤りを。しかし、あいつはおれたちにもめったにできないようなことをした――その誤りを率直に認め、直せるところはあくまで直そうとしたのだ。たとえ、自分が犠牲になろうとも」(セカンドジェネレーション上巻「受け継ぎし者」)
<暗黒の女王>に挑戦するために入った奈落(アビス)から、自分を愛し力となってくれたにもかかわらず自分が裏切った二人の人間―キャラモンとクリサニア―を送り出し、自分は女王を食い止めるためにこちらに残り、向こう側から扉を閉ざしてもらうこと。彼はそれを選択します。女王が予言した永劫の責め苦を受けることを承知で。
向こう側から振り返り、<暗黒の女王>が彼を引き裂く姿に怯み、扉を閉ざすことを躊躇うキャラモンへの最後の叫び。
これは文字通りの意味ばかりではないと思うのです。共に生まれ、常に共に在り、自分が兄を必要とする以上に、弟が自分を必要としてくれることを必要としていた兄への、ひねくれた愛情表現のように感じるのです。
「兄さんにはもうぼくは必要ないんだよ」
ページの最後に、マジェーレ兄弟についてもう一つ妄想があります。
「everything is ready…Lt.」
これのどこが「愛の言葉」なのか。それを説明するには「戦闘妖精・雪風<改>」「グッドラック 戦闘妖精・雪風」を読んで頂くしか。それでもやっぱりこれが愛なのかって追求されると、私には愛に感じられるんですって答えるしかありませぬ。
以下、ちょっとだけ脳裏をよぎった妄想。普段の私の雪風観とは違います。ほんの気の迷いです。
<改>、グッドラック、アンブロークンアローを通じて、雪風の後部座席には正規のフライトオフィサ他、ブッカー少佐やフォス大尉などが搭乗しています。しかしパイロットシートには、ほぼ深井零しか乗っていません。零がダウンしている時は無人機として出撃したりしていますが。
<改>の最終話「スーパーフェニックス」で、ジャムが用意した偽のTAB14に着陸させられた雪風は、ジャム人間たちの操作を拒み保護装置を作動させます。零以外の人間は触るな、とばかりに。
零を乗せて偽TAB14を脱出したものの、ジャムに撃墜される雪風。一緒に死ねるならいい、という零の願いを裏切り、雪風は近くに来ていた、完成したばかりの後継機FRX00に自己を転送します。完了するや否や零の体を射出し、新たな機体FRXで古い機体スーパーシルフを焼き払い、帰還します。パイロット達の無事を確かめることもせず。
FRXのパイロットシートには退役寸前のサミア大尉、後部座席には零の身を案じたブッカー少佐が乗っていました。「(雪風の)パイロットシートには、ほぼ深井零しか乗っていません」と書きましたが、唯一の例外がこの瞬間です。雪風となったFRXの高機動に耐えられず、サミア大尉は頸を折って即死、ブッカー少佐も頸を傷めます。FRXという機体に感じた危険性、恐怖がとっさに自分の頸を護ったと少佐は考えています。一方で、何故FRXは乗員を殺しかねない高機動に入る前に乗員を射出しなかったのか、雪風は錯誤に陥っていたのか、と疑問を発しています。
そこでですね。ここからやっと妄想です。FRXに生まれ変わった雪風は、そこに、パイロットシートに零以外の人間がいたことが許せず、サミア大尉を「殺した」のだったりしたら、怖いなあ…なんて。
はい妄想です、気の迷いです。雪風には、そんな人間めいたどろっとした感情なんて持ってて欲しくないです。ジャムと戦うために必要なものは利用し、不要とあらば切り捨てる、容赦ない戦闘知性体であってください。例え「愛する」相手であっても。
「そうよ、瑠璃は墨染めの白拍子なの。そして吉野君と舞を舞うの…!」
どんなものにも、どんな思いも、人を救う一方で滅ぼす力があるのでしょうか。幼い日の美しすぎる思い出ですらそうですか。
「やはりあなたは…わたしを滅ぼしましたね。
これは罰なのでしょうね…愛執を断てなかったわたしへの…」
本当に、瑠璃姫を殺せなかったことを後悔していますか?異母兄のことも。…尋ねるまでもありませんね。あなたが無事吉野に辿り着いたと信じています。
「レオナール…それでも私はあなたのことを…愛していたわ…」
どのルートであれ、「タクティクスオウガ」をプレイした人なら、この「それでも」の四文字の計り知れない重さに説明はいらないでしょう。
N>L>Cルートの順にプレイしてきて、正直アロセールというキャラは嫌いでした。しかしCルート第四章まで来てうっかり死なせてしまい(リセットしてやり直しましたけど)この台詞を見て、ふっとそれまでのわだかまりが抜けました。わかっているなら、それでいいよ、と。
「運命の輪」(未クリア)で、バルマムッサの真相を知るシーンではこんな台詞が追加されてましたね。
「どうして彼だけに、それを負わせたの?」
「御意…麗しき、我が星の神子様……。」
舞台は戦時下、状況は絶望的、国は滅亡の危機にあります。
「星の神子様」とはウィンダス連邦の首長、女王に等しい立場です。
その恋人カラハバルハは召喚士で、ついに状況を打開する最後の手段、神獣フェンリル召喚術を完成させたことを報告し、神子様に決断を迫ります。それを行使すると、彼は死んでしまうことは二人とも承知なのです。
激しく葛藤し涙する神子様。しかしついに命を発します。
「カラハバルハ…、ウィンダスを、救ってください…」
他に何が言えたでしょう。他にどんな言葉を返せたでしょうか。
しかーし、このような「自分のために死ねと命じてください」という台詞に対し、予想外の、しかしいかにも彼らしい返事を返した主君もいます。いつか必ず別の機会に取り上げます。
「父さんを助けたかったんだ。この街の力を使って…。
ぼくが生まれたとき、父さんがそうしてくれたように。
今度は僕が助けたかったんだ」
「魔」が支配する街、レアモンデ。その力を求めて争う複数の勢力。謎と裏切り。改竄された主人公アシュレイの記憶と、それを翻弄する幻影。それら全ての中心にいた彼の本音がこれでした。しかも、今の自分じゃなくて、幼く何も知らなかった、ひたすら父を慕っていた頃の自分、異母弟とそっくりの姿を欺きながら。
…あざといにも程があるわっ。
平和より自由より正しさより
君だけが望む全てだから
歌詞検索ついでに曲もiTunesで買っちゃいました。そしたらまた別の妄想が。
蛇足。
「BEYOND THE TIME」のこの部分が、マジェーレ兄弟のテーマに思えてしかたがないです。
You can change your destiny 時の向こう
You can change your future 闇の向こう
We can share the happiness 捜してゆく
許し合えるその日を
「伝説」終盤で、時間旅行で哀しむべき未来を見て、どんな手段を使ってでもレイストを止める覚悟を固め、奈落(アビス)に向かうキャラモン。
「消えた月の竜」で、タキシスに盗まれたクリンを捜し見つけ出すレイストリン。死せる魂の身で、神々にもできなかったことをやっちゃうんだからやっぱり最強ですよね、はい。
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