2018年12月5日水曜日

FF11メッセージ 本番レポート

12月2日、ステージイベント「FF11メッセージ」昼の部と、謎解きゲーム「闇の王の復活」に、旦那とフレンドさん二人と参加してきたレポートです。
11月17日の物販スタート時に下見してきたレポートはこちら。

まずはPT紹介です。
わたくし、ヒューム女F3B黒魔道士のLewis。迷子スキル青字。
旦那、エルヴァーン男F7B赤魔道士。マグリフォンと呼んではいけない。
フレンドさん1、ヒューム男F4B赤魔道士。食を制する者。
フレンドさん2、ヒューム男F2A暗黒騎士。はるばる秋田県からの出陣。

私が北海道にいた頃からも、何度もオフで会ったことのある面子です。
今では引退気味ではありますが、ヴァナでは神威やリンバス、アルタナミッションなどを一緒にクリアしてきました。

ステージイベントの昼の部と、謎解きイベント「闇の王の復活」を攻略するべく、開場9:30の入場を目指します。
集合は京王よみうりランド駅8:50だったんですが、旦那がデジカメを忘れて取りに行き、快速を逃しました。先についていた二人に遅れる旨を連絡すると、まだ動いていないよみうりランド行きゴンドラの切符に、既に長蛇の列とのこと。我々の切符も一緒に買っておいてもらったおかげで、合流してゴンドラが動き出してからはスムーズに乗れました。

今回、行きのゴンドラはモンク号。


イベント開催日ということで、臨時入場口のオーロラゲートが解放されていました。ここからまた入場券購入の行列かと思ったら、ステージイベントのチケットにこの日の入場料も込みだったんですね。開場と同時に乗り込みました。

まずはオーロラスペースでオプチツアーセットを受け取ります。物販は下見の時にあらかた済ませてあったので今はスルーです。
それからGJショップで、緊急パッチが入って修正された謎解き地図を貰いました。
新コンテンツ実装>難易度鬼>ブーイング>緊急パッチ、の流れはもはやFF11の様式美。

火の眼を押しつつ、ゴブリンドリンク再び。

ここで謎解きセットを開き、前回来た時に見つけて撮影してあったヒントを使って5つの謎を解き、ステージイベントまでの巡り方を決めました。

ここまでのヒントを全て見つけ、他の謎を解いたところで、グッジョバKITCHENで早めのお昼ご飯を食べつつ、中ボスのベヒーモスの謎と戦います。私が席を立っている間に見事解いたのはヒュム赤さん。なるほどこれは、こういう媒体でしかできない遊びですね。

ステージイベントの前に、GJショップで闇の王との戦いの部を貰いました。この時点ではこれが終わりだと思って余裕かましてました。

ステージイベントでのトークとショートドラマ。
ややダークな語り口までアルドのイメージぴったりのイケボ、中村悠一氏。FF零式のトレイ、FF14のサンクレッド、PSO2のアーデム、ゼノブレイド2のメツより、今回のアルドが一番はまってると思いました。

対してリアルクピピというか、ヒュームの皮を被ったクピピ、てくらいクピピにしか聴こえなかった加藤英美里氏。
そして以前からFF11好きの声優さんとしてお名前を知っていた小西克幸氏、エルヴァーン男性のモーションがもはや芸でした。エルヴァーンの旦那が苦笑してました。

浅川悠氏の演じるフィックは……
浅川さんは、わるく、ない……
ただあのシナリオのオチのせいでフィックとあの名台詞のイメージがあぁ、でした。

そうそう、会場での拍手によるアンケート、共和国民が意外と多くてミスラが結構少なかったですね。声優さん達の間ではバストゥーク優勢で嬉しいです。

ところで4Gamerのこのイベントの記事の、ホールの観客席の写真のすみっこに、かろうじて当人達にそうと判る程度に小さく、旦那と私が写っています。フレさん達はどの辺だったかな。
https://www.4gamer.net/games/005/G000546/20181203035/

ライブはやっぱりヴァナディールマーチに尽きました。最後の合唱は一緒に歌いましたよ! 気持ちよかったです。
『ヴァナ・ディールの星唄』のエンディング企画にも参加したことですし、星唄クリアして聴きたいものですね(第3部まで入って止まってます)


ステージイベント後はハクタクの残りの眼や、配達少年のギルドスタンプを埋めつつ、物販列がやや空いてきたのを見計らって、ヒュム赤さんが当日発売の皆川史生氏の画集やメモリアルブックを買いに並びます。紙-オプチカルハットももらいました。その間謎解きゲームの闇の王に挑み、最後のヒントをすっ飛ばして最後の答えにたどり着きました。
これでも認めてもらえるのかな? 最後のヒントの文章に苦戦しつつ、通りすがりのブリガンダインさんの助言を受けながら旦那が解読に成功しました。

これでクリアだー!とぬか喜びしつつ、このパネルの前で4人で記念撮影してみたり。

並んで買っていただいた画集の表紙に描かれた全キャライラスト、まずは自キャラをチェックしたくなりますよね。写真左下、裏表紙の下の方の帯に隠れる日陰の身でしたが、見返り美人で描かれてて良かったです、はい。右上は旦那、上中がヒュム赤さんのフェイスで並んでました。

少々時間が余ったけど、調布のお店を6時から予約してもらってますし、さっさとクリアしてきますかーとGJショップに戻りましたらば。

実は、ここからが、真のラストバトルでした。【ショック】【計り知れない強さです。】
そういえば前回撮った手がかりらしき写真の中に、まだ使ってないのがありましたっけね…なんか小さいのが…

時刻は4時半を回り、イルミネーション点灯。11月17日の同時刻よりずっと暗いです。
こんな中で、あんな小さくて暗い手がかりを探すのは無理でしょう。もともと謎解きゲームをやりたいと言い出したのは私で、二人はステージイベントのために来たんですし、キットも一つしか買ってませんし。なんなら私らは後日また来てクリアしてもいいので、今日のところは諦めましょうか、と言いかけたんですが…

だがここで!

プロマシアミッションもアビセアも根性でクリアしてきた冒険者達の魂に火がついた!

イルミネーション輝く真デュナミス-よみうりランドに、SPアビリティ使用のエフェクトがごごごっと吹き上がるのが見えた!……ような気がしました。もはや誰も彼らを止められない。

ざっざっざっざっ…
予約したお店に遅れる電話を入れるヒュム赤さん。
デジカメとバッテリーライトを駆使して手がかりを記録する旦那、エル赤。
乏しい灯りの中、見つけた手がかりを熱心にノートに書き写し考察する暗黒さん。
その背中を追うMP切れの黒。


そして、隠されシ謎は解かれ、悪夢は終わりました。

疲れたけど結果は大満足!
ちなみに、スマホや万歩計の記録を付き合わせた結果、一連の謎解きのために推定6〜7千歩は歩いている計算になりました。

帰りのゴンドラは戦士号!

ヤグドリ、じゃなくて焼き鳥とビールで乾杯です。
結局20分の遅刻で済みました。

収穫物の写真を撮ったり、お土産を頂いたり、近況や来年の話をしたり。

これまで何度かゲームのリアルイベントに参加してきましたが、ここまで長く充実した時間を過ごせるのはなかなかないです。それもリリースから16年以上のゲームでですよ。
愛されてるんだなあ、ファイナルファンタジー11。
またこんな催しがあるように応援し続けるしかないですね!
その時は、今回お会いできなかった方々にも会えたらいいなあ。

2018年11月17日土曜日

FF11メッセージ 下見レポート

本日11月17日より、よみうりランド内ショップでFinal Fantasy XIファンイベント
「FF11メッセージ」のオリジナルグッズ販売やミニゲームが始まりました。
12月2日のホールイベントには、フレンドさん二人が加わって四人パーティで参加します。

当日に効率良く回れるように、事前に買い物や下見をしてまいりました。

京王よみうりランド駅からゴンドラに乗ったらば、天井にこんなステッカーが。


全ジョブ分あるんでしょうか。ゴンドラは27号機でした。

入場券売り場のすぐ隣のスカイゲートから入ったんですが、
ゴンドラ側に戻ってオーロラゲートから入れば、グッズ販売&オプチツアー開始の
オーロラスペースが目の前です。


記念撮影用パネルの一部。


お楽しみのオリジナルグッズ販売です。当日は混雑すると思いますが今日は余裕でした。



FFXI Refriender の画面を見せて、クリアファイルとオプチツアー台紙を頂きます。
このクリアファイルは、ドリンクやアトラクションのおまけグッズをもらうのに必要になります。ステッカーは当日使おうかな。


台紙の裏側はFF11風の園内マップになってます。
これ、別行動してる人に連絡するのに
「もしもし、今(G-4)にいるんですが」
「了解、(C-5)から向かいます」なんて使ってみたいです。


ここまで済ませて「ノド、かわぃた…」ので
さっそく火の眼のスタンプを押しながらゴブリンドリンクを買いました。
なんかつぶつぶが入ってます…。


飲んでみると、透明なジェル層に包まれた種のつぶつぶ感が
本当に両生類の卵みたいでした(たぶんバジルシードだと思いますが真相は如何に)

続いて、金の眼のスタンプを目指します。ここではバストゥークステッカーがもらえるんですが…


「これ、乗らなきゃ駄目なんですか?アトラクション代払うので、これだけもらえませんか?」
「チケットをお受け取りした以上、乗っていただかないわけには…3分程度で終わりますので」
「……。」
模擬銃に触りもせずに、薄暗い中3分揺られていたら少し酔いました。


これが私の勇者の証!


サンドリア出身の旦那はこちらに挑戦。意外と楽しんできた模様。
ここで土の眼をゲットです。
 ウィンダスのアトラクションはスルーで、水の眼スタンプだけもらいました。


減ったHPをペルシコス・オレで回復しました。普通のピーチネクターという感じです。
ここで木の眼を押して、五行眼コンプです。
14時に入場して、ここまで約1時間半でした。


せっかくなので大観覧車に乗りました。ジェットコースターの高低差がすごいです。
紅葉もいい感じでした。


アイテムショップで、ミニゲーム「闇の王の復活」キットも買ったんですが
これは当日にみんなで楽しもうと思ってまだ封も開けてません。
道中で発見した手がかりや謎の箱の位置は記録して歩きました。

そうこうするうちに日も傾き…


16:30〜、ライトアップの時間です。
この時点ではまだこんなに明るいですが、当日はもっと早く日が落ちるのでしっかりイルミネーションを楽しめると思います。


帰りのゴンドラからの眺め。
6時少し前でしたが、これから入るお客さんが多くて驚きでした。ここからが本番?


帰りのゴンドラの天井は、10数番代でこれでした。
あと一つずれていたらバストゥークだったのかな。残念。


帰ってからちゃんと着てみましたよ共和国Tシャツ。
共和国式敬礼!(のつもり)


公式放送でも言ってましたが、ミニゲームをクリアしようと思ったらかなり歩くことになりそうなので、歩ける靴と体力はしっかり整えていきましょう。
今日は快晴で風もなく暖かい日でしたが、当日はどうなるかわかりませんので防寒対策もお忘れなく。
あとは時間と心に余裕をもって、当日を楽しみましょう!

2018年6月3日日曜日

空の緑

札幌時代、「街中にこれだけ原生林を抱えた百万都市はそうそうあるまい」と思いながら北大キャンパスや付属植物園、円山の森を散歩していました。江別産の煉瓦色の建物が似合うんだなこれが。

東京の都心はどれだけ枯れた光景が広がっているのだろうと思ったら、意外と公園や緑地が多いのですね。建物の屋上やテラスなど高いところにわざわざ植え込んだ空中庭園。

5月12日、有楽町のシネコンビルのテラスから。


海が近いせいか海鳥もいるようですね。観光バスも走ってます。


人がいない瞬間を狙うのが難しいこと。


こちらは6月2日、JR新宿駅。

















あえて自分のシルエットなど。ちょうど花を持ってるようになりました。

これは「ジャクモンティ」という、幼木の時から幹が白い品種の白樺なのだそうです。そういえば普通の白樺はこれくらいの細さではまだ茶色いですね。
こんな限られた土の量、土壌生物も満足にいないような環境では、野生種が白くなるまで育たないし、育たれても困るのでしょうね。枯れたら枯れたで好都合とばかりに最新流行の品種に植え替えるのかもしれません。

線路を覗きます。

真上過ぎてなかなか電車が撮れませんでした。
昆虫も蜘蛛の巣も、枯葉の一枚も見当たらない天上からお送りしました。

2018年4月18日水曜日

櫻井フェア感想

 2018年1月から本日に至るまで本屋さんを賑わしている、「櫻井孝宏×早川書房ミステリフェア」。櫻井氏というと、私の中では「ファイナルファンタジー零式」のクラサメ隊長、「ファンタシースターオンライン2」のあれ(名前出したくない…)とサガさんの二役、それから「閃の軌跡」のクロウ役を演じられた声優さんですね。特にお勧めの5冊には推薦文の書かれた帯付き。初めて見る作者からクリスティーの既読作品まで………

『魔術師を探せ!』ランドル・ギャレット
『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン
『災厄の町』エラリイ・クイーン
『ABC殺人事件』アガサ・クリスティー
そして
『ポケットにライ麦を』!!
この推薦文!!!
…こやつ、只者ではない。声が良くて演技が上手いだけではない。
 ミステリ・マニアには悪いくせがあって、例えば、自分が好きな作家のファンだという”お仲間”に出会った時、相手がその作家のどの作品を特に評価しているかによって、相手のマニア度を推測したりすることがある。誰もが知っているような代表作を挙げるようでは駄目で、一般的知名度は低いけれども完成度は高い、所謂”通好み”な作品の題名を相手が挙げたりすると、時代劇に登場する剣の達人さながら「おぬし、出来るな」と、内心で急に相手のことを認めたりするものなのだ。
クリスティー『五匹の子豚』新訳版の、千街晶之氏による解説のまさにこの気分を味わいました(この解説のために新訳買いました)。これは他のお勧め作品も読んでみずにはいられません。旬を過ぎていたので少々手こずりましたが、全て帯付きを手に入れました。
 以下、個別ネタバレフィルタ付き感想&「もしもこれらの作品をラジオドラマ化するとしたら、どの役を櫻井氏に演じてもらいたいか」の私見です。

『魔術師を探せ!』ランドル・ギャレット

「言語矛盾ですが魔術による科学捜査なんです」

 現代科学が発達しなかった世界。代わりに魔術(あるいは魔科学とでもなんとでも)が発達していたかもしれないパラレルワールド。ハリイ・タートルダヴ『精霊がいっぱい!』、殺人事件を扱うミステリとして米澤穂信『折れた竜骨』など枚挙に暇がありませんが、共通しているのは、これらの世界において、魔術は決して万能の力ではなく、決まった法則、定理に則って働くということです(我々の世界における科学技術のように)。その前提の上に初めて成立する「魔術による科学捜査」。はい、大好物です。

 主人公ダーシー卿は魔術師ではありませんが、上級魔術師のショーン・オロックリンを従え、彼が魔術によって検証した証拠物件を元に縦横無尽の活躍で事件を解決します。アクションあり、駆け引きあり。この作品をラジオドラマ化するとしたら、ぜひ櫻井氏にダーシー卿を演じてもらいたいですね。とにかくかっこいいんです。

(ネタバレ)
三作の中では「シェルブールの呪い」が一番好きです。先ほど、櫻井氏が演じるならダーシー卿と主張しましたが、この話のシーガー卿役も聞いてみたいものです。生まれつき善悪の判断基準を持たない、殺人嗜好のサイコパス。心霊代数学(サイキック・アルジェブラ)が発達したこの世界では、そうした人格の持ち主に<ギアス>を施して行動を制御し、正しい目的のために働かせることもできるのでした。それは彼、シーガー卿自身を幸せにしたでしょうか?
私はイエスだと思います。そう、思いたいです。


『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン

「”何気ない一言”なんて存在しないのかも知れない」

「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」
 この”何気ない一文”から十四年かかって生まれた安楽椅子探偵ニッキイ・ウェルト。少し前に、別の作家によるミステリの中で、主人公の刑事(皮肉にもその名はハリーなのです)が安楽椅子探偵ものを揶揄するシーンを読んだばかりだった私は、さあお手並み拝見と意気込んで…まんまと彼に魅了されてしまいました。だからといって現場の捜査官を軽視するわけでもありません。
 犯罪から暴力の血生臭さを拭い、綺麗にお皿に盛り付けて読者に供するのが安楽椅子探偵もの。そこで賞味すべきは料理人の繊細な技であり、屠殺や肉の解体にまで思いを馳せる必要はないのです。

私が舌鼓を打ったのは「10時の学者」の、料理に例えるなら冷菜のゼリー寄せのような冷たく滑らかな幕切れ。顛末を耳にしたニッキイの、冷ややかな微笑みを帯びた台詞、櫻井氏の声でぜひ聞きたいです。
「おしゃべり湯沸かし」の滑稽味はデザートにぴったりだと思います。

『災厄の町』エラリイ・クイーン

「災厄の意味を名探偵エラリイが教えてくれます」

ミステリとしては突っ込みどころ満載ですが、人間ドラマとしては重かった。真の加害者はライツヴィルの町、まさしく災厄の町そのものでした。被害者も容疑者も、真犯人さえも、その被害者に過ぎなかったのです。

(ネタバレ)
全六部のうち第二部の最後に事件が起こるんですが、第三部の半ばで手口、真犯人、動機が掴めてしまいました(ローズマリーの正体など、登場時からそうだと疑っていましたし)。いやいや、全米のクイーンファンが認める最高傑作だそうですから、この後二転三転あるんでしょうと思ったのにそんなことはなかった。ちょっとちょっと作中のエラリイさん、あなた本当に名探偵なんですか。その場にいたくせに、なんで部外者の私にまで見え見えの手がかりに、その可能性に気づかないんですか。
ということで、櫻井氏が演じるならへっぽこエラリイさんよりも、悲劇の男ジム・ヘイトの方を聞いてみたいです。

『ABC殺人事件』アガサ・クリスティー

「ヒントだらけなのに最後まで解けないんです」

 十代の初めにクリスティーにはまり、その頃早川書房から刊行されていたミステリ作品のほとんど、9割は読み尽くしたと思います。真鍋博氏による、謎めいた表紙イラストの時代でした。(真鍋版クリスティー
しかしこの『ABC殺人事件』は例外で、別の出版社の子供向けレーベルで既に読んでいました。同梱だった『雲をつかむ死』の記憶は曖昧なのですが、『ABC殺人事件』のプロット、真犯人は忘れようがありませんでした。そして後々まで、大人向けの本物(?)を手に取ることがなかったんですが、このフェアで即買いでした。

(ネタバレ)
財産目当てに肉親を殺すばかりか、その本質を眩ますために殺人狂を装い無関係な人々を次々と手にかけ、さらに冤罪を着せる対象まで仕立て上げる真犯人の残酷さ。十二だった初読時の印象は強烈でした。あれから数知れない推理小説や、実際に起こった事件の話を読んできましたが、再会した奴にはやはり腸煮えました。真相を暴かれた時にさっくりピストル自殺できなくてざまあみろ、です。そこまで見越していたムシュー・ポアロ、万歳!

 櫻井氏の声はポアロにはちょっと違う気がします(新作映画『オリエント急行殺人事件』の日本語吹き替え版のポアロは草刈正雄氏=真田昌幸@真田丸だそうです)。ここは忠実なるワトソン役、ヘイスティングズ大尉が相応しいところでしょうか。

『ポケットにライ麦を』

「読後に零れるため息までがこの物語の一部です」

 ほんとこれ、完全に同意です。本屋さんの店頭で思いっきり頷きましたよ。もしかしたら変な声出てたかも。不審者ですみません。

(ラストシーンネタバレ)
 涙が粒になって、ミス・マープルの両眼からこぼれおちた。憐憫を越えて、憤りが燃えあがった――冷酷非情な殺人者に対する、はげしい憤りだった。
 やがて、憐憫と憤怒も、彼女の胸から消えて、代わって勝利の歓びが波のようにあふれてきた。古生物学者が、発掘された顎骨と二、三の歯の化石から、絶滅した動物の骨格を組み立てるのに成功したときの、あの喜びに似た感情であった。

 クリスティーの正義感と人間愛が結実したようなこの結び。初読時、まだ生物学にロックオンしていなかったものの、何らかの学問を究めんと志していた自分に、憧れのため息を零れさせてやまなかったこのくだりを挙げてくれた櫻井孝宏氏が、もしも演じるなら。

(再びネタバレ)
素晴らしい妻パトリシアを愛し愛されることを知っていながら、哀れな娘グラディスを騙し利用し殺した上にあんな侮辱を加えてのける冷酷きわまりない美男子、ランスロット・フォテスキューをぜひ!櫻井氏の声と演技で!
想像するだけで鳥肌が立つというものです。


***


 ああ、楽しかった。久々に古典ミステリをたっぷり味わいました。またこんなフェアをやって欲しいものです、早川書房さん。
 紙の本、万歳!


2018年4月14日土曜日

アフタヌーンコンサート2

また来てしまいました北とぴあカナリアホール、
堺裕貴さんのアフタヌーンコンサート(ピアノ伴奏:舟本いづみさん)です!

強風でJRが遅れて気を揉みましたが、無事に地下鉄に乗り継げて一安心。そして地下鉄連絡口のローマ字表示で「きたとぴあ」ではなく「ほくとぴあ」であると知りました。うっ。

前の週に、花粉症が辛そうなツイートをしてらして心配でしたが、やっぱり顔色がすぐれないような…?でも歌は素晴らしかったです。早く季節が過ぎてほしいものですね。

『メサイア』より『トランペットは鳴り響き』
メサイアは全曲聴いたことはなくて、せいぜい合唱だけ抜粋版だったのでこの曲は初聴きでした。最後の審判の刻を告げる歌声。これは死者も目を覚ましますね。

『美しき水車小屋の娘』より『もはや私の心には感じない』
『ドン・ジョヴァンニ』より『シャンパンの歌』
早口でまくしたてるような歌。聴いてる方は楽しかったですが、歌ってる方は百メートル走…お疲れ様でした。

『鈴の音は単調に鳴り響く』
『黒い瞳』
原語と日本語訳歌詞で交互に歌われても違和感がないといいますか、日本語に聞こえなくて、しばらく聴いてから「あれ?」と気づいたりしてました。

昔ボイストレーニングの先生に言われたことですが、日本語の母音は薄く、口の先の方で発音されるので、奥まで広く開ける唱法にはそぐわないのだとか。ウィーン少年合唱団(ちょっと記憶が定かでないですが)が日本語で「さくらさくら」を歌った時、"sakura"の"u"の母音がどうしてもドイツ語の太い"u"になってしまい、日本語の「さくら」に聴こえなかったという話もあるそうです。

堺さんの歌声が日本人離れしているせいもあるかも知れませんね。…などと知ったようなことを言えるほど、プロの方の歌をこんな至近距離で聴いたことはそうないのですが。札幌で合唱やっていて、ソロ活動をしている方々の歌声を間近で聴いて圧倒された時ともまるで違うと感じました。いつかオペラの舞台に役付きで立たれる日を楽しみにしています。

あと「黒い瞳」と聞いて思い浮かべたのは別のメロディだったんですが、聴いてみるとこちらもなんだか覚えがありました。どこで聴いたのか思い出せません。カバー版だったのかな。

『宇宙戦艦ヤマト』
前回は戦艦大和に因んだ歌が入ってましたが、よほどお好きなのでしょうか。あちらは悲壮な歌でしたが、こちらは力が湧いてくる勇壮な歌、軍歌そのものです。いやあ燃える燃える。
昔、職場の送別会の二次会のカラオケで、この歌を替え歌にしてみんなで歌ったことがあります。「地球」=現任地、「イスカンダル」=栄転先、「宇宙戦艦」=栄転後の役職名、「ヤマト」=送別されるご本人の名前で。
なんだか予想外の盛り上がりを見せた挙句、最後の
「うちゅーうせんかん、やー!まー!とーーー!」(ぱっぱらー、ぱぱぱぱっぱらー)
で、名状しがたい異様なハイテンションが醸し出されていました。この時は栄転だったから良かったんですが。後々この時の異様さを思い出した時、かつて勝ち目のない戦争で、こんな音楽に鼓舞され、酔わされて死地に送り出されていった人たちのことを思って寒くなったものです。歌の、音楽の持つ力が、もうそんなことに利用されることがありませんように。
幕間 ベートーヴェン『悲愴』第二楽章
第一、第三楽章の印象が強い曲ですが、こうして第二楽章だけ聴いても沁みます。そう言えば、子供が生まれてからピアノを始めた弟が親子コンサートで披露していたのもこの『悲愴』第二楽章でした。

『桜横丁』中田喜直
『桜横丁』別宮貞雄
同じ詩による曲の聴き比べ。宵の情景を詠っているのですが、前者がまだ明るさを感じさせるのに対し、後者は夜桜のような妖しさ、幽玄みを覚えました。
会場アンケートによると6:4で前者が人気らしいです。

最後は"Non ti scordar di me"、イタリア語で「勿忘草」。
やっぱり日本語よりも、歌曲が発展した国の言葉の方がストレートに迫ってくる気がします。

なんだか歌の感想よりも、聴きながら考えたり思い出したりしたことばかりになってしまいましたが…
次回、7月30日(月)のコンサートも楽しみです。
それまでに、バス〜バリトンの歌曲をいろいろ聴いてみて、堺さんの歌声で聴きたい曲のリクエストなどできたらいいと思っております。

ちゃんと(?)宣伝しておきますか。
2018年7月30日(月)14:30開場15:00開演
王子北とぴあ(地下鉄南北線王子駅から直通)
14Fカナリアホールにて、
共に至近距離からバズーカでぶち抜かれましょう!

2018年3月4日日曜日

『ローエングリン』感想(2)「異教の神々」

東京二期会オペラ『ローエングリン』224日公演の感想の続きです。
前編はこちらです。

本題の前に、軽くネタ話。 鑑賞後は、旦那とワインとスペイン料理のお店に行きました(「交響組曲エオルゼア」の後にも二次会で行ったお店です)。その最中、前回語ったようなことをとりとめなく興奮気味にまくし立てます。

「設定聞いて、ブラバントはルートヴィヒ2世の夢の中の存在なのかと最初は想像したんだけど、たぶん違うね。同じ時系列の中世ドイツなのか、あるいは全く別の時空なのかはわからないけど、ルートヴィヒも、エルザもブラバントもあの世界のどこかに実在していて、ルートヴィヒが見た夢とエルザが見た夢が奇跡のリンクを遂げたんだと思う」

「なるほど。思うに、その夢をリンクさせたのは聖杯の仕業で、それこそが聖杯の持つ奇跡の力なんじゃないか?」

「ほほーう、そう来たか!」

「あれだよ、聖杯はあの世界のさらに上位に位置する存在から送り込まれた、自律性を持つ知性体、オーパーツなんだよ。多元宇宙の過去から未来までを見通し、条件付きで干渉できる超時空存在」

「オーパーツて…このゲーム脳が。元ネタは神話なんだから、そこは『神が遣わした神器』とか表現しようよ。
でもその線はすごくありそうね。ほらあれ、FF14のコンテンツファインダー!
タンクを求めてCF希望を出していたエルザと、ヒーラーを求めていたローエングリン(中の人はルートヴィヒ)を、ワールドの壁を超えてマッチングさせた聖杯(コンテンツファインダー)
ワールドは違ってもこれからもフレンドでいようとする二人だが、ローエングリンは『決して中の人の本名や、住所職業年齢などを詮索してはならない』とエルザに約束させる。そして二人の交流は続き、とうとうローエングリンはそれまでのワールドを捨て、エルザとエターナルバンドするために移転してくる。しかし、エルザのFCメンバーはもともと昔からの友達や、リアルでの知り合いなど、身元の知れている人で構成されていた。彼のプレイヤースキルや人柄の良さは認めつつも、一部のメンバーは頑なにリアル事情を秘する彼に不審を抱く。そして…
てな感じ?」

「ゲーム脳は君の方だろう」

とまあこれは酔っ払いの与太話ですが。二人の夢が時空を超えてリンクするという、ラノベやゲームにありそうな展開が、「聖杯」という神秘の存在を介することで神話の世界にしっくり馴染む気がします。
そしてまた、聖杯が二人を選んで結びつけたのは、ルートヴィヒがローエングリンよりも、むしろエルザに似ているからではないかとも思います。

美しい高貴の姫君との婚約を破棄し、理想の王国の実現を夢に見、国の財政を無視して築城に熱中したルートヴィヒ。
亡き父が認めた求婚者であるテルラムント伯爵フリードリヒを拒み、告発に自分で反論することもせず、理想の騎士が救ってくれることを夢見たエルザ。

エルザは、フリードリヒの求婚を何故拒んだのでしょう。「好きじゃなかったから」と言ってしまえばそれまでです。しかしこの時代、深窓の姫君が自由恋愛で夫を選べたとは思えません。他に好きな人が、身分の差で許されない恋人がいたのなららまだわかりますが、そもそもそんな相手と知り合う機会があったでしょうか。

フリードリヒは劇中では悪役ということになっていますが、実は「悪いこと」は何もしていません。「エルザが弟を溺れさせるのを見た」「騎士は魔法を用いて神明裁判を欺いた」というオルトルート様の嘘を信じて「正義の告発」を行っただけなのです。
故ブラバント公爵の信任篤く、息子の養育を委ねられ、またエルザに求婚することを認められてもいます。武勇については国王も認めるところ。
さらに、彼を匿った者も同罪に処すという仕打ちを受けてなお、彼の身を案じてくれる家臣にも恵まれるくらい、人望もありました。
とどめに、利用する気満々とはいえ、オルトルート様が夫にするくらいですから、まあまあいい男ではあったんではないかと思います。

ルートヴィヒもエルザも夢見すぎ、理想高すぎというと冷淡でしょうか。現実を生きる力が弱すぎたというのは憐憫でしょうか。周囲が自分に期待した役割を全うできなかった二人は、生まれる時代、境遇が悪かったのでしょうか。

そんな二人に対して、燃える復讐心とそのための策を弄する頭脳、実行する豪胆さをあわせ持つオルトルート様の、現実を生きる力の圧倒的なこと。

第二幕で最初に目に入ったのは、ぞっとするような異様な光景でした。
禍々しい赤い照明の下に十字架が点在する、墓地のような不気味な場所に、ストレッチャーで運び込まれてくる傷つき瀕死の患者たち。苦痛に喘ぐ彼らを、血塗れになりながら必死で介抱する看護婦姿のオルトルート様。

一方で煌々と灯りの漏れる館の窓に写るのは、宴に酔いしれる勝利者たち。彼らはオルトルート様と瀕死の患者たちのことなど露ほどにも気にかけていません。

さて、この患者たちは一体誰なのでしょうか?
最初は神明裁判に敗れ、もうだめぽモードの夫フリードリヒに、「もう一踏ん張りさない!」と尻を叩いている姿なのかなとも考えました。しかし看護の甲斐なく患者はぐったりとしたままです(息絶えてしまったようにも見えます)。

そこに肉体的には傷一つない姿のフリードリヒがすっかり意気消沈して現れ、オルトルート様が自分を偽ったせいで決闘に負けて名誉も何もかも失った、と責めます。
対して、懸命の看護にもかかわらず患者を救えなかった落胆から一転、オルトルート様は強気の態度で夫を挑発します。

「偽ったのは誰?」
「お前だ! 神は神明裁判を通じて俺を打ち破ったではないか?」
「神、ですって?
あなたは自分の臆病さを神と呼ぶのね?」

騎士が勝ったのは魔術のおかげ、あなたはそれを暴きさえすれば良いと妻に囁かれ、フリードリヒは力づけられ再び騎士に挑む自信を得ます。素直な人です。

その後現れたエルザに哀れな言葉と仕草で取り入り、その隙にゲルマンの神々のために復讐を誓い加護を請うこの場面が、対訳本を下読みしていて一番燃えました。
Entweihte Götter! Helft jetzt Meiner Rache!
貶められた神々よ、今こそ我が復讐に手を貸し給え!
Bestraft die Schmach, die hier euch angetan!
ここで御身らに加えられた恥辱を罰し給え!
Stärkt mich im Dienst eurer heil'gen Sache!
御わざに仕える我に力を与え給え!
Vernichtet der Abtrünn'gen schnöden Wahn!
背教者たちの恥ずべき思い上がりを罰し給え!
Wodan! Dich Starken rufe ich!
Freia! Erhab'ne, höre mich!

力強きヴォーダン(オーディン)、御身を呼びます!
崇高なるフライア、聞き届け給え!
中村真紀さんの歌声はもちろん、舞台上での演出も期待を裏切らない迫力でした。階段上に立ち、赤いライトを浴びて掲げた長杖はライトセーバーさながらに輝いて見えました(敵役は赤と相場が決まってますよね)。貶められた神々の名を高らかに呼ばわる瞬間、閃く稲妻に祝福されるオルトルート様。瀕死の患者のために戦ったその血に塗れた姿のまま。

もしかして、あの瀕死の患者たちは、十字架に囲まれた墓所のような場所で、彼女が必死で蘇らせようとしたのは、キリスト教との戦いに敗れ、異教の悪魔と貶められたゲルマンの神々だったとしたら…なかなか熱いとは思いませんか。
戦い傷ついた神々の、その血を浴びた姿で復讐を誓い、加護を願うオルトルート様!
主役たちよりはるかに主人公力高いです。
神の血を浴びること自体も、強力な護符ですしね(ジークフリート然り)。
Segnet mir Trug und Heuchlei,daß glücklich meine Rache sei!
我が詐りと偽善に祝福を授け賜え、この復讐の成就のために!
「詐り」「偽善」を祝福する神なんて、やっぱり邪神じゃないのと思われるかもしれませんが、ではひたすら信じよ、疑うな、試すなという教えが本当に正しいのか、人のためになっているのか?
なんて語り始めるときりがありませんが、私は疑い(疑問を持ち)、試し(実験をし)、その結果それまでの考えが間違っていたら訂正することで前進してきた科学の徒です。どちらかを選べと言われたなら、裏切り騙し合い上等、時には自らの信徒にいたずらをしかけ、世界の理不尽さを教えてきた神々の方を支持します。

「この上なく惨めなあなたにはわからないのね」
「その高慢さが後悔の種になるのよ!」

まんまとエルザを誑かし、自らの幸福を誇る彼女に(内心で)向けた言葉。
このエルザの高慢さ、思い上がりはまさに彼女を破滅させます。
後に新婚の寝室で夫に名を明かしてほしい、たとえ死をもって脅されても、決して人に漏らしはしないと、
「あなたのために死んでみせます!」
と言い切った時に、ああやっちゃった、と思いました。
オルトルート様、やはりあなたの予言は正しかった。あの囁きがなくとも、愛とそれ故の不安に目が眩んだエルザはいずれ問わずにはいられなかったでしょう。

原典のト書きでは、ゴットフリートが元の姿に戻ったショックのあまり倒れ伏すオルトルート様ですが、この舞台では死んではいないとのことです。フリードリヒという手駒は失ったものの、オルトルート様の戦いはまだまだこれからですわ! と勝手に期待しております。


* * *

冒頭の旦那との会話以外にも、ゲーム脳的解釈はいろいろ(酔っ払いながら)展開したんですが、とりあえず旦那。キリスト教化以前の古の神々を「旧き神々」「旧支配者」とかいうのやめてください。世界が違う〜。

参考文献:音楽之友社 「オペラ対訳ライブラリー ローエングリン」高辻知義訳
(一部自己流訳です。ドイツ語勉強中です)

2018年2月27日火曜日

『ローエングリン』感想(1)「それを問うことなかれ」

2月24日、東京二期会オペラ『ローエングリン』を観てきました。その素晴らしさと感動と、特に深作健太氏による演出、騎士ローエングリンの正体=バイエルン国王ルートヴィヒ2世として描く設定の凄さに黙っていられず、拙い筆をとって書き記しております。乱筆乱文ご容赦ください。

事前に、ドイツ語テキストの全文と対訳を読み、重要な意味を帯びて繰り返される旋律(主題)をこちらで聴き込み、
飯守泰次郎の「ローエングリン」音楽講座

ルートヴィヒ2世の生涯や人柄について軽く復習した上で、いざ東京文化会館へ。
さあ、第一幕が上がります。

舞台中央には純白の上衣の少年。たぶんあれが魔法で白鳥に変えられてしまったブラバントの嫡子ゴットフリートなのでしょう。
そして、疲れ切った様子で舞台奥から隅へとよろめき這い進む黒衣の人物。あれがルートヴィヒ2世?
彼が舞台上手で嫌そうに書類仕事をしたり、架けられた絵画を裏返したり、下手でノイシュヴァンシュタイン(新白鳥城)の模型をいじったりしている間、中央ではメインの物語、彼が見ている夢が展開していきます。

国王の登場。
テルラムント伯爵フリードリヒによる、亡きブラバント公爵の姫エルザが弟ゴットフリートを殺害したという告発。
それに対し何の申し開きもせず、ただ自分が夢に見た光り輝く騎士について語るエルザ。
黒衣の人物の目はエルザに引き寄せられます。
一方で、白い毛皮で縁取った青いマントに、赤いたすきをかけた人物が、ときどき舞台に現れては高みから成り行きを見つめています。一言も発さず、誰の目にも映っていない様子で。

そしてフリードリヒが神明裁判を宣言し、国王はエルザに代わって告発者と戦う代理人を召喚します。しかし名乗り出る者はなし。
神明裁判(神明決闘)とは、神は正しい者に味方するという前提のもと、決闘の結果で正邪を裁く調停儀式(FF14でも決闘裁判という名前で出てきますね)。ドイツばかりでなく中世ヨーロッパの、特に貴族階級の話にはよく出てきます。ちなみに平民の場合は武器を使わない、村を挙げての殴り合い(フェーデ、だったかな)になります。
エルザの嘆きが頂点に達した時、黒衣の人物は舞台中央に躍り出て、黒衣を脱ぎ捨てエルザが夢に見た通りの騎士として現れます。
エルザの夢と、ワーグナーに、とりわけ『ローエングリン』に深く傾倒し、現実のバイエルン王国よりも理想の王国を夢見たと言われるルートヴィヒ2世の夢がリンクした瞬間です。

それまで、ルートヴィヒがエルザの夢を見ていて、その夢のなかのエルザが騎士を夢見て、さらに…という『鏡の国のアリス』的な入れ子構造を想像していたのですが、実際の舞台を見ていてそうではないと感じました。どちらがどちらかの内にあるのではなく、時間と、もしかしたら空間をも超えて、二人の夢がリンクして生じた奇跡。

エルザの潔白を信じて命を賭けて戦い、勝利の暁には夫となる条件として、騎士は一つの条件を出します。決して自分の名前を、素性を、どこから来たのかを、訊ねてはならないと。これが「禁断の問い」です。

真の名を知られると、神通力を失ってしまう。
あれこれ例をあげるまでもなく、古今東西の神話や伝承によく出てくる掟です。
エルザはそれを固く誓い、騎士は見事にフリードリヒを打ち倒しますが命までは取りません。そしてエルザと結ばれていればハッピーエンド、だったのでしょうが…

第二幕。
婚礼のために聖堂へ向かおうとする騎士の前に(その前にいろいろあるのですが、今回語りたいこととは関係ないので後日に回します)フリードリヒが現れ、おまえは魔法を使って神明裁判を欺いたと騎士を告発し、やましいところがないのなら素性を言えと迫ります。何かが描かれたボードを手にして。

音は素晴らしく良く聴こえるものの舞台からは遠い3階席から、霞む目をボードに凝らしました。あれは何だろう?第一幕の小芝居で、黒衣の人物が裏返していた絵画…?
そこだけ字幕を一顧だにせず(予習の甲斐あって内容はばっちり!)一心に目を凝らして、ようやくそれが何であるか見知った時、背筋が凍りました。

「おまえは何者だ?」
その問いとともに掲げられていたのは、白い毛皮で縁取った青いマントに、赤いたすきをかけた人物、そう世に広く知られたルートヴィヒ2世その人の肖像画だったのです。

ここから完全に私の感想、私の解釈です。
エルザの祈りに応えて騎士として現れた彼は、自分がルートヴィヒであることを忘れ、夢に見た理想の乙女エルザが夢見た理想の騎士、ローエングリンであると思い込んでいる。
そして、背後の高みに黙して立つマントの人物は、彼の無意識、スーパーエゴ(超自我)。自分がローエングリンになりきった夢を見ていることを承知で、この夢が醒めることがないよう願いながら、何もできずに見守っている。この美しい夢から醒めてしまったら、現実のバイエルンに戻らなければならないから。

そう解釈することで、騎士が決して素性を知られてはならない理由が、神話的お約束だからではなく、現実的で残酷なものとしてのしかかってきました。

フリードリヒの問いを撥ね付け、エルザと婚礼を挙げる騎士ですが…

第三幕。
しかしなんということでしょう。婚礼を終え、出会ってから初めて二人きりになれた時、エルザは葛藤の末、ついに禁断の問いを発してしまうのです。
それも、よりにもよって、あの毛皮のマントの肖像画を手にして。

周囲が彼にそうなることを期待し、その重圧で彼を押しつぶし夢の世界に逃避するに至らしめたであろう、立派な国王の絵姿を手にして。

「あなたはどこからいらしたの?
いつか私を置いてそこへ帰ってしまわれるのではなくて?
そうでないなら、どうか私にだけあなたの本当の名前をおっしゃって!」

自分はどこから来たのか。
自分は何者なのか。
それが問われてはならなかったのは、彼自身が最もそれを知りたくなかったから。
否、思い出したくなかったから。
思い出さなければ、このままこの美しい夢の世界にいられたのに。

エルザが、エルザただ一人がそれを問いさえしなければ、思い出さずにすんだのに。

これこそが、「禁断の問い」が禁じられた真の理由だとしたら。
オリジナルや伝承よりもはるかに残酷な悲劇です。震えが止まりません。

"Weh' uns, was tatest du!"

崩れ落ちる、彼の夢と理想の象徴、新白鳥城の模型。
白鳥の化身たるゴットフリートが何度作り直そうとしても、もはや手遅れ。
それは他ならぬエルザに、もう一つの彼の理想の存在に壊されてしまったのですから。

彼が己の素性、聖杯の物語を皆の前で語るシーン。その高貴な血筋、孤独な栄光の物語はルートヴィヒ2世そのもの。語りながら彼が流す血の涙が見えます。「行かないで」と嘆くエルザがなんと色褪せて見えることか。

最後に浮かび上がる血の色の十字架は、湖畔でルートヴィヒ2世の亡骸が見つかった場所に据えられている十字架をイメージしているそうです。
この三幕の美しくも残酷な夢は、統治権を剥奪された翌日に謎の溺死を遂げた彼が、末期にみた夢だったのかも知れません。だとしたら、鳩に導かれて彼が帰って行った先は、バイエルンではなく彼岸だったのでしょうか。今度こそ、彼が永遠に醒めることのない平穏の内にありますように。

* * *

私はオペラや古典芸能の類は、現代的な演出ではなく原作に忠実に演じられるのを好みます(アンケートにも、この点だけ旦那の用紙までもらって「古典的に!」と訴えてきました)。言葉も翻訳などせず原語+字幕で、判りにくいというなら予習していくべし、それが観る側の礼儀であると、他人様に押し付けはしませんが自分はできるだけのことはしますし、旦那にもあらすじ読ませました。
しかしこの舞台の、深作健太氏による「ローエングリン=ルートヴィヒ2世」という設定には完全に平伏しました。感極まりました。この舞台を観られて、本当に良かったです。ありがとうございました。
あらゆる関係者様、演奏者様たち、特に四人の光の戦士たちに栄光あれ。



参考資料
音楽之友社 「オペラ対訳ライブラリー ローエングリン」高辻知義訳
Youtube 飯守泰次郎の「ローエングリン」音楽講座
ノイシュヴァンシュタインの観光パンフレット(日本語)他
当日に会場で購入したパンフレット(上演前に目を通せたのは広瀬大介氏による「曲目解説」の主に38〜39ページ、重ね合わされた人物相関図)

2018年1月29日月曜日

アフタヌーンコンサート

もはや年に何回書いているのかという頻度の自称ブログ。日常の細かいことってほぼツイッターで間に合ってしまうのです、ええ。

はい今日は堺裕貴さんのアフタヌーンコンサートに行ってきました。
『交響組曲エオルゼア』で、「白銀の凶鳥、飛翔せり」のソロを歌ってらした方です。私は同曲が流れる大迷宮バハムートを攻略していないので、画面に現れた帝国将軍が女性だとは知らず、堺さんの歌声から溢れる圧倒的ラスボス感に「リアル将軍、降臨せり…」などと脳内でつぶやいておりました。

ミィ・ケット合唱団の中には、これをきっかけにFF14を始めた方もおられまして、堺さんもそのお一人です(オーケストラの中にはもともとプレイしていた方もいます)。早速ツイッターでフォローし、奥様とクエストを進めていく様子や、コンサートやTVへの出演状況をチェックしておりました。
3日のニューイヤーオペラコンサートもEテレでしっかり観てました。嵐の合唱も、乾杯の歌も同じ真剣な表情で歌っておられましたね。

さて楽しみにしておりました本日のコンサート。
場所は王子。昔仕事で一度だけ来たことがありますが、もちろん場所がらなど覚えてはおりません。しっかり乗り換え駅を検索して、早め早めに出たところ一時間近く早く着いてしまいました。北とぴあ14階、眺めがいいですね。

会場。ささやかなお花をピアノの上に飾っていただきました。

プログラムはご本人のブログへ。ガチオペラからアニメソングまでいろいろです。
https://ameblo.jp/skana1986/entry-12344880450.html

が、どれをとっても。
エオコンの時の、あの広い東京国際フォーラムを震撼させた声が、今回はほんの数メートル先ですよ。至近距離でバズーカでぶち抜かれたようなものです。はー…。

「蚤の歌」でのチャーミングな演技、大好きな「オペラ座の怪人」ではクリスティーヌと怪人の二重唱の一人での歌い分け。
「闘牛士の歌」での演出については口を噤ませていただきますが、続く「あしたのジョー」との間に(演奏中以外は撮影自由)、かぶりつく勢いで写真を撮ってる方がいらっしゃいました(笑)
私は「ドン・キホーテ」を歌ってらっしゃる時の堺さんが一番凛々しかったと思います。

終演後は図々しくもご一緒に写真を撮らせていただきました(見せませんが)。
2〜3か月おきのこのアフタヌーンコンサート、次回は4月11日(水)だそうです。
行ける限り通っちゃいますよ!

余談:北とぴあ1階ロビーにはパイプオルガンがありました。ロビーコンサートもあるそうですがこのために来るには遠いかな。生パイプオルガンもしばらく聴いてません。どこか近場でやってないかなあ。