2014年3月12日水曜日

雄性の復讐

 今度はホワイトデーを前に、女性である私から見た「男性」というものについて語ります。
 昔、やはりこれとは異なるブログで書いたことを、よりわかりやすく書き直してみました。

 男女差別とか、セクシャルハラスメントとか、女性の社会進出とかいう言葉を耳にする度考えました。人間社会は男性優位に作られていると、大多数の人は考えているのだなと。きちんと調べたことはありませんが、私が目や耳にしたどんな部族や民族の慣習や風習や宗教においても、「男性は女性より偉い」「女性は男性に従属すべきである」とはっきり明文化されたものは数あれど、逆を聞いたことはありません。何故なんでしょう?

 以下しばらく、***まで、生物学の基礎知識がある人は読み飛ばしちゃってください。

 地球上に生物というものが生まれ、進化していった過程について、なるべく簡潔に語ります。
「進化」というものは、親から子へ受け継がれるDNAのコピー時に偶然「間違って」生じた変化のうち、より生存に有利な結果を生じた変異(変化)の蓄積です。ある個体ではより速く走れるようになる変異が生じたとする。また別の個体ではより頑健な体を作る変異が生じたかもしれません。変異によって有利な体を得た個体は、他の個体よりも多くの子孫を残していったことでしょう。

 どうせなら、別々の個体に生じた、より速く走れる遺伝子と、より頑健な体を作る遺伝子が一緒になったら、さらに有利になりますよね?だから、子孫を残すときに、他の個体と遺伝子の交換、パートナーチェンジをしてみようよ、てことになりました。そして、子孫を残すにあたって二つの個体が遺伝子を半分ずつ混ぜ合わせる、有性生殖というプロセスが発達していきます。

 カタツムリなど、一部の生物は性を持ちません。雄も雌もなく、互いに平等に配偶子(ありていにいうと、これが二つ合体すると受精卵、新たな命の元になるもの)を交換します。
 しかし多くの高等動物は、より効率よく配偶子が出会う機会を作るために、二つのタイプの異なる配偶子を作り出しました。
 一つは、大きくたくさんの栄養を与えられ、それ故に作られる数は少なく、運動もほとんどできません。これが雌性配偶子、卵です。
 もう一つは、小さくほとんど栄養を持たない代わり、数多く生産され、運動性に優れ、もう一つの配偶子を探し求めます。これが雄性配偶子、精子です。

 卵も精子も、お互いに出会って受精しなければ新たな命となることができません。しかし精子の数に対して卵の数は限られています。大多数の精子は受精することなく死んでいく運命にあります。
 卵を作る方、雌は、数に制限はあっても、自分の生んだ卵をほぼ確実に受精させ、子を誕生させることができます。
 精子を作る方、雄は、雌が作る卵の何倍もの精子を作ることができます。なんとなれば、ある一匹の雄が他の雄を蹴散らし、周辺の雌の卵を独占して自分の子孫だけを繁栄させることもできてしまいます。そして、蹴散らされた雄は子孫を残すことなく虚しい生を終えていきます。

 もちろん雄も育児をする必要があって一夫一妻性をとる動物も数多くいます。しかし産みっぱなしの動物や、一夫多妻性の動物においては、多くの雄が戦いに破れ、子孫を残せないまま死んでいくのです。
(動物の配偶システム、雌を巡る争い、多くの例外など面白い話は語りだすときりがないので、ここではやめておきます)

 雌は、生殖年齢に達するまで生き残りさえすれば、自分の身の丈にあっただけの子孫を残すことができます。しかし雄は戦って勝利しなければ子孫を残すことができずに無駄に死んでいきます。
(ならば雄の子よりも雌の子を多く産んだ方が、より多くの子孫を確実に残せるんでは?という疑問がわくでしょう。理由はここでは割愛しますが、答えはノー、雄の子と雌の子を11で産むのがたいていの場合最適戦略なのです。雄は余る運命にあるのです)

***

 雄は戦う性、大多数は戦って無駄に死んでいく性でした。ただ生き残る能力なら雌と同等かそれ以上であっても、子孫を残して生を全うするのはほんの一部。優れた雄を選び、試し、尽くさせたあげく確実に自分の子孫を残せるのはたいがい雌の方。同じ種の生命として産まれてきて、こんな不公平な話はないと思いませんか?

 一見話飛びますが、人間に限らず、動物の群れ社会においても、その成熟度って弱者に対する保護や扶助の度合いによって計られると思うのですよ。子供、老人、障碍者、人間社会において二次的に弱者にされた女性などに対する。

 さて最初の問いに戻ります。
 なぜ原初の人間社会は、多くの部族や民族の慣習や宗教は、こぞって男性を女性より優位に置いたのでしょうか。

 私はこう考えます。
 人類が発生し、それが公平な社会を目指し(完全な公平に辿り着く日が来るのかはわかりませんが)成熟するために、まず最初に救済しなければならなかった最弱の存在は、男性だったからです。
 不平等な動物の雄と雌が、平等な人間の男と女になるために、最初にしなければならなかったのは、ずっと哀しい性だった雄を、「偉い」男に格上げすることだったんではないでしょうか。明文化された制度によって。後にそれは一部で暴走し肥大化していく結果を呼んだものの。


 そう考えると、人類のたかだか数千年の女性蔑視の歴史は、数億年に及ぶ動物の雄たちの怨念、雄性の復讐…そんなものにも思えてきます。だからといって、男女差別を認める気はさらさらないですし、職に就いていた間中ずっと、そんなことはさせませんでしたけれどね、もちろん。

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